清香がバスに乗り込むや否や、バスが発車する。
よろけそうになる清香を前方の座席に座っていたホーマーが支えた。
「おっと、気をつけろよ!」
『ありがとうホーマー』
清香は先ほどは見れなかったホーマーの筋肉をまじまじと見る。
『ホーマー…本当に良い身体してるよね』
「だろ?惚れんなよ!」
笑いに包まれる車内。
清香はアポロの前の空席に座らされた。
清香のことを知らなかった選手達にホーマーが清香を紹介する。
高校からNASAに入ってきた部員もいるのだ。
眼鏡をかけたワットが後ろの方の座席から話しかけてくる。
「キヨカは英語ペラペラだよね!僕も日本語ペラペラになりたいから今度教えてよ」
ワットの日本好きは昔からではなかったはずだ。
何故こんなに好きになったのだろうか。
清香は後ろを向いてワットに尋ねた。
『ワットって前戦ったときは日本好きじゃなかったよね?どうして好きになったの?』
ワットは眼鏡を押し上げる。
「君たちと戦った後、フェニックス中と練習試合があったんだ。そこでエースを張っているカケイを見てね!」
『ああ!!カケイくん…駿か。懐かしいな』
ワットは興奮冷めやらぬ様子で話す。
「カケイはすごかったよ!吹っ切れたようにがむしゃらに練習していた。とても強かったよ」
『私たちと戦った後ってことは……へえ、駿ってフェニックス中のエースになってたんだ』
「カケイは今日本にいるらしいから、出来れば会いたかったんだけどね」
清香はその言葉に食いつく。
『今、駿って日本にいるの!?』
ワットは笑って続けた。
「僕の予想、だけどね。この前フェニックス高と戦ったときにカケイがいなかったからさ」
『そっか、日本にいるのか…』
清香は少し苦笑した。
去年までのデータに筧駿の名前はなかった。
つまり大和と同じで駿も年下ってことか。
勘違いも甚だしいな。
清十郎の前ならこう言われそうだ。
「キヨカ!俺、覚えてる?」
急に清香の思考を遮って話しかけてきたのは、このチーム唯一の黒人である、
『パンサーくん…』
清香は目を細めて笑った。
『もちろん覚えてるよ』
「俺、キヨカが言ってたセイジュウロウシンと戦いたかったんだけど…」
パンサーは少し困ったように笑う。
「他に見てみたいやつがいてさ」
数年前、NASA中と戦った際、日本て有名な中学生プレーヤーの名をパンサーから聞かれていた清香。
咄嗟に自分の弟の名前を答えていたのだ。
もちろんパンサーたちに弟とは言っていない。
『アイシールド21でしょ』
パンサーは大きく頷く。
「でも待てよ。NASA中で戦ったときそっちのエースの名前って確か…」
ホーマーが記憶を引き出しから引きずり出すように考え込む。
清香はため息をついた。
言われるとは思っていた。
私がうまくフォローしなきゃな。
『それもアイシールド21だよ』
「だよな!同一人物か?」
清香は首を横に振る。
『パンサーくんが走りを見たいって言っている選手はあのときのアイシールド21とは違う』
「じゃあカゲムシャだね!」
ワットが閃いたように言う。
使い方間違ってるよ、とつっこむ暇がなかった。
『アイシールド21は偽物だよ。でもね、実力は本物』
清香は笑った。
その脳裏にはセナと大和が浮かんでいた。
『楽しみにしてていいと思うよ』
わかんねぇというように首をひねるホーマー。
「ま、どっちにしろアイシールド21って呼ばれてるやつなんだろ?強けりゃなんでもいいや!」
正直、清香はホーマーの楽観的な考えをありがたいと思った。
『そういうこと!』
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