がちゃりと玄関の扉を開く清香。
鍵の音が極力聞こえないように気を使う。
玄関にまで夕食のいい匂いが漂ってくる。
おなかが鳴るのを抑えながら、そろりそろりと足を運び、リビングを覗き込む。
ソファに座っているのは母親のみ。
清十郎はまだ帰ってきていないのかな。
清香は少し安心しながらリビングへ入る。
驚いた顔の母さん。
「あら、大阪じゃなかったの?」
『早く帰って来ちゃった』
えへへと笑い誤魔化す清香。
清十郎はいないようなので安心して母さんの横のソファに腰を下ろす。
「あらそう。でも困ったわね」
『どうしたの?』
荷物を整理し、洗濯物と自室へ持って行くものとで分けながら清香は尋ねた。
「夕食、二人分しか用意してないわ」
『私は適当にカップ麺でいいよ』
そう?と首を傾げる母親。
「なら二人分で良いらしいわよ、清十郎!」
…………ん?
清十郎…?
何故母親がリビングのソファに座っているのに、料理の匂いが漂っていたのだろう。
何故この時間は夕食の準備をするはずの母親が、ソファでくつろいでいたのだろう。
その答えは簡単だ。
「…インスタントのラーメンは良くない」
エプロンをつけた清十郎がキッチンから顔を覗かせていた。
表情は…言わなくても理解して頂きたい。
「勝手に俺との約束を破って大阪へ行った挙げ句、さらに繰り上げて俺が明日向かうはずだった予定を消すか」
ああ。
これは、怒っている。
『あのね、これはね、ちょっとね』
清十郎は出来た野菜炒めをリビングへ並べる。
「後で俺の部屋に来い」
いつもなら、俺の部屋に来てほしいなのに。
命令形。
清香は背筋がぞくっとするのを感じた。
『ハイ…』
清香は顔をひきつらせて受け入れるしかなかった。
このあと、清香が二時間説教を受けるのは、また別の話である。
fin
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