31st down


清香は成田空港に降り立つ。


誕生日を祝うために休暇を利用して日本へ帰ってきたのだ。


一年近く日本の空気を吸っていなかった。
同様に日本の食べ物も口にしていなかった。

そして、双子の弟に会っていなかった。

清香はトランクをかかえると、母親と弟との待ち合わせ場所であるインフォメーション前に移動した。

幸い目の前にインフォメーションがあったため、母親の方が清香に気づき手を振っていたのだ。

横には仏頂面の弟もいる。

清香は少し苦笑いした。


表情は全然変わっていないな。

でも…


清香は弟である清十郎を見て目を見開いた。

その考えは軽い衝撃によって妨げられた。

「清香、お帰りなさい!」

母親は清香を抱きしめる。
アメリカのハグに慣れていた清香はすんなりと受け入れ、抱きしめ返す。

母親から離れ、同様に弟を抱き締めようとして清十郎の表情を見る。

今までに見たことがないほど顔が紅潮していた。

確かに姉弟同士で抱きしめあったことなどないし、日本ではそういう文化は発展していないことも知っている。

『そんなに、赤くならなくても…』

清香の苦笑いに少し落ち着きを取り戻す清十郎。

「に、にに荷物を持つ」

前言撤回、落ち着いてなかった。


母親の運転する車で帰宅する。

後部座席には清香と清十郎が乗った。


清香は清十郎を久々に見たとき感じたことを清十郎に話した。

『…清十郎、なにかスポーツ始めた?』

ぴくりと眉を動かす清十郎。

清香はそれでその答えが是だと理解する。

「清香も、筋肉がついた」

”清香も″という言葉。

暗に”俺もだが”という意味も含まれているのだろう。

母親の微かな笑い声が聞こえる。

「清十郎ったら、中学校に入ったと思ったら急にすごい部活に入るんだもん。驚いちゃったわ」

『す、すごい部活!?』

清十郎の方を見ると、動じずにただ正面を向いている顔がある。


「アメリカンフットボールだ」


清十郎の口からこぼれ出る単語。

それはあまりにも聞き覚えがありすぎる単語で。


『え?アメリカンフットボール?』

「アメリカの全人口のうち、約50%がプロまたは大学のリーグを主に観戦しているといわれる、アメリカで最も人気のあるスポーツだ」

清十郎の説明はともかく。

清香は先日ノートルダムに取材に来た月刊アメフトの記者の言葉を思い出した。


”そうなんですか。今中学アメフトであなたと同じ 姓で有名な選手がいるものですから、つい”


清香は恐る恐る清十郎に尋ねる。


『日本の中学アメフトで月刊アメフトに載ってる、進って姓の選手ってもしかして』

「俺だ」

清香は声にならない声を上げる。

「そんなに驚くこともないだろう。アメフトはかなり日本ではメジャーになりつつある」

『いや、そういうことじゃなくてね、なんていうか…』


清香は清十郎の顔をまじまじと見る。


『双子って…怖い』






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