清香は成田空港に降り立つ。
誕生日を祝うために休暇を利用して日本へ帰ってきたのだ。
一年近く日本の空気を吸っていなかった。
同様に日本の食べ物も口にしていなかった。
そして、双子の弟に会っていなかった。
清香はトランクをかかえると、母親と弟との待ち合わせ場所であるインフォメーション前に移動した。
幸い目の前にインフォメーションがあったため、母親の方が清香に気づき手を振っていたのだ。
横には仏頂面の弟もいる。
清香は少し苦笑いした。
表情は全然変わっていないな。
でも…
清香は弟である清十郎を見て目を見開いた。
その考えは軽い衝撃によって妨げられた。
「清香、お帰りなさい!」
母親は清香を抱きしめる。
アメリカのハグに慣れていた清香はすんなりと受け入れ、抱きしめ返す。
母親から離れ、同様に弟を抱き締めようとして清十郎の表情を見る。
今までに見たことがないほど顔が紅潮していた。
確かに姉弟同士で抱きしめあったことなどないし、日本ではそういう文化は発展していないことも知っている。
『そんなに、赤くならなくても…』
清香の苦笑いに少し落ち着きを取り戻す清十郎。
「に、にに荷物を持つ」
前言撤回、落ち着いてなかった。
母親の運転する車で帰宅する。
後部座席には清香と清十郎が乗った。
清香は清十郎を久々に見たとき感じたことを清十郎に話した。
『…清十郎、なにかスポーツ始めた?』
ぴくりと眉を動かす清十郎。
清香はそれでその答えが是だと理解する。
「清香も、筋肉がついた」
”清香も″という言葉。
暗に”俺もだが”という意味も含まれているのだろう。
母親の微かな笑い声が聞こえる。
「清十郎ったら、中学校に入ったと思ったら急にすごい部活に入るんだもん。驚いちゃったわ」
『す、すごい部活!?』
清十郎の方を見ると、動じずにただ正面を向いている顔がある。
「アメリカンフットボールだ」
清十郎の口からこぼれ出る単語。
それはあまりにも聞き覚えがありすぎる単語で。
『え?アメリカンフットボール?』
「アメリカの全人口のうち、約50%がプロまたは大学のリーグを主に観戦しているといわれる、アメリカで最も人気のあるスポーツだ」
清十郎の説明はともかく。
清香は先日ノートルダムに取材に来た月刊アメフトの記者の言葉を思い出した。
”そうなんですか。今中学アメフトであなたと同じ 姓で有名な選手がいるものですから、つい”
清香は恐る恐る清十郎に尋ねる。
『日本の中学アメフトで月刊アメフトに載ってる、進って姓の選手ってもしかして』
「俺だ」
清香は声にならない声を上げる。
「そんなに驚くこともないだろう。アメフトはかなり日本ではメジャーになりつつある」
『いや、そういうことじゃなくてね、なんていうか…』
清香は清十郎の顔をまじまじと見る。
『双子って…怖い』
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