34th down
清香がアメリカに帰ってきて数日がたった。

いつものように練習試合が始まる。

ここノートルダム付属中は強豪であるために、頻繁に練習試合を申し込まれていた。

フェニックス中もそのうちの一つ。


今日戦うのはテキサスのヒューストンにあるNASA中。

サラはずっとうきうきとしていた。

清香は様子が違うサラに理由を尋ねた。

『サラ、NASA中知ってるの?』

「知ってるもなにも、私の出身の州の強豪よ!ノートルダムじゃなかったらきっとそこに行ってたと思うわ」

清香はへえと相づちを打つ。


東京の王城みたいなものかな。
もしノートルダムに来なかったら王城に進学していただろうし。


清香は先日行った地元の学校を一つ例にあげて考える。


清香は学校についた相手方の選手を案内する役目を任されていた。

さすがに一年近くここで過ごしていれば迷うことはない。

人数が多いと聞いていたので、サラにも手伝って貰うことにしていた。


学校の前にバスが停車する。

もちろん学校前にはバス停はない。

『来たみたい』

つまりこのバスはNASA中がチャーターしたバスである。

中から出てきたのは葉巻をくわえた背広姿の男性。

清香はその男性を見て首を傾げた。

『あれ…あの人って』

「ほらキヨカなにしてるの!はやく案内しなきゃ!」

すぐに練習試合が始まるので、すでにチアの格好をしているサラが清香の手を引く。

清香は思考を中断させ、バスへと向かった。


ぞろぞろとバスから下りてくる選手たち。

『…全員白人?珍しいね』

「あ、待って。一人いるわ」

サラは最後に下りてきたタンクトップ姿の青年を指差す。

『……足の筋肉、すごい』

清香の独り言を無視してサラは選手たちの元へ近寄る。

「ハーイ!私はノートルダム付属のチアリーダーキャプテンのサラ!こっちの変なこと呟いてるのは選手兼メンタルトレーナーのキヨカよ」

理不尽な紹介をされ、清香は軽く憤慨する。

いや、変なこと呟いてるのは本当のことなんたけど…!

清香の必至なアピールは伝わらず、サラは紹介を続ける。

「あなたたちをグラウンドへ二人で案内するわ!今日はいい試合にしましょ?」

清香が言う予定だったことをすべて言われてしまった。

サラは背広姿の男性と握手を交わす。

清香はがくっと肩を落とすと、背広姿の男性の元へ近寄り握手を求めようとする。

しかしその背広姿の男性はあからさまに嫌な顔をした。

『あ!私、そんなに変じゃないですから!サラは誇張しすぎなんですよ』

背広姿の男性の横にいた金髪の青年が代わりに清香の空いている手をぐっと握る。

それに驚く清香。

「ほら、案内してくれよ!」

その青年は笑って清香の背中を押す。

清香は背広姿の男性の反応を見ることなく、グラウンド方向へと向かわされた。


前を金髪の青年と清香。
後ろをサラとその他の選手が歩く形で、広い学校内を歩く。

横にいた金髪の青年は急にため息をついた。

「…わりぃ。あのヤロー白人以外を認めようとしねーんだ。お前も黒人がいないのを不思議に思っただろ?」

突然話しかけられびくつく清香。

しかし話の内容を聞き終わると、苦笑いをした。

『ああなるほど。だから…』

「お前日本人?」

一発で当ててくれたのは初めてだなーと思いつつ頷く清香。

「俺はホーマー・フィッツジェラルド。QBだ」

清香は手を差し出してきたホーマーの手をおずおずと握る。

「おいおい!俺はそんな差別とかちっぽけなことしねーって」

『あ、ごめん…つい』

清香はこっそりホーマーの身体をみる。

手を握り締められたときに気づいたが、ホーマーは中学生にしては凄い筋肉の持ち主だ。

「ん?俺の顔に何かついてるか?」

『いや!なんでもない!』

「…惚れたんだろ?」

『そんなわけないでしょ!!』

ホーマーは大声で笑う。

「そんなに否定されると寂しいんだが」

清香もつられて笑った。


これがNASA中と清香との出会いだった。




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