29th down

清香がドリンクを選手が集まっている側のベンチに置きに来たときだった。


片づけをするスタッフの近くに見えたのは長身の選手二人。


一人はアイシールドをつけた21番。

そしてもう一人は…
『カケイだ…!』


清香はドリンク二つを手に、二人の方へ向かった。


『お疲れ、アイシールド21』

ヘルメットをつけているときは大和のことをそう呼ぶように心がけていた清香。

アイシールド21こと大和はこちらに振り向くと笑顔をみせた。

清香はすかさずドリンクを手渡す。

「清香、相手のベンチメンバーの41番は日本人だったんだ」

清香は少し言いづらそうに大和に語りかける。

『ごめん、気づいてた』

「そうなのか!?」

「その顔立ち…日本人か?」

カケイがいたことに気づく。

同じようにドリンクを手渡しながら日本語で答えた。

『うん、ノートルダム大付属のメンタルを支えること、してます。清香っていいます』

あまりにも英語に慣れすぎていたためか、日本語が片言なことに自分で気づき、苦笑いをする清香。

最近は大和にもずっと英語だったもんなー。

「清香はメンタルサポートだけじゃなくて、選手なんだ。日本人だからって体格の問題じゃない、やれば出来るってことだよね」

『試合には出ないけどね!』

筧が軽く目を見開くのが分かった。


「この辺あんまり日本人っていなくてさ。清香とも英語だし、日本語忘れそうだよ」

清香から受け取ったドリンクに口を付ける大和。

カケイは清香が手渡したドリンクを飲まなかった。

「…さすがだな。最後捕らえきれなかった」

大和がアイシールドごしに笑ったのが分かる。

久々に強い相手と戦うことができてたのしかったのだろう。

「でもブロッカーぶっ飛ばした。危なかった」


ノートルダム大付属の選手が大和の元へ近寄ってくる。

どうやらミーティングが始まるようだ。

「っと悪いな、また今度!」

大和は一度カケイの方に背を向ける。

しかし思い出したようにもう一度カケイを見た。


「…その”今度”がアメリカか日本かは分からないけど」

大和はぐっと右手を握り、目を細めてカケイに笑いかけた。

「今度ちゃんと試合開始から闘おう」

そしてにかっと歯を見せて続けた。

「約束だ!」


大和は清香もすぐ来いよといい、先にミーティングへと向かった。



カケイの顔を見ると何かを考えているような顔。

『あの、カケイ…くん?』

「あの、筧……駿でいいです」

駿でいいの?と首を傾げる清香に頷く筧。

『駿は、アメフト好き?』

「…ええ」

『ごめんね、なんていうか、一回壁にあたったのかなーって』

筧は目を見開く。

『その体格の日本人なら、日本ではテクニック考えなくても、よかったでしょ?』

「…はい」

『それだけのテクニックがあれば、ベンチスタートなわけ、ないもんね』

「…俺アメリカに来たとき、日本人だからアメフトの体格差があることを理由にアメフトをやめたんです」

話しにくそうな筧を見て清香は咄嗟に止める。

しかし筧は聞いてほしいんですと言い、そのまま続けた。

「しかし数ヶ月前のノートルダム大付属とウチの練習試合を見て、気づいたんです」

『そのとき、アイシールド21を見たんだ』

ええと頷く筧。

「日本人だからとか関係なかったんです。全部コーチの教えに従ってこなかった自分のせいだということが分かりました」

清香は微笑んだ。

その筧の顔があまりにも清々しい顔だったためだ。

「今日、戦えてよかった。あなたとも会えましたし」

『え!私?』

「あなたは日本人だから女性だからって諦めたりはしなかった。自分に出来ることを精一杯やっている」

『まあ他の理由はあるんだけどね。アメフト、好きだから』

筧は清香の着ているユニフォームを見た。

プロテクターを付けていないので下に着ているタンクトップが見えるほど首もとはぶかぶかだ。

「41番、俺と同じですね」

『ポジションはラインバッカーだよ』

筧は笑った。

清香ははっとする。

初めて笑顔見たかも…。

「俺と同じだ」

『そうだね』

二人で声を揃えて笑う。

『駿、敬語使わないでいいんだよ。アメリカでは年齢関係ないから』

誰かさんの受け売りだけどねと心の中で苦笑する。

「わ、わかった。清香…さん」

『さんも取っていいのに!』

「それは…まだできない」

ジョンの怒鳴り声が遠くから聞こえる。

清香が恐る恐る振り向くと、ミーティングの輪から一人外れてカンカンに怒っている1番のユニフォームが見えた。


『ごごごごめん…もう行かなきゃ』

「また”今度”、ですね」

『うん…!また”今度”ね!』


そういう言うと清香は脳天にくる拳骨を予想しながら、ミーティングの輪へと走った。


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