26th down

清香がチームに入って基礎練習を始めるようになってしばらくたったある日。

キャプテンであるジョンが話しかけてきた。

ポジションについて話があるという。


「キヨカのポジションなんだが、どうしたい?」


清香は苦笑いをする。

自分は試合には絶対に出られないのだからポジションなんて決める意味がないということは、ジョンは分かっているはずだった。

それでも自分のポジションを考えてくれるキャプテンとしてのジョンに清香は感謝した。


『私は体格的にワイドレシーバーかな』

ジョンはため息をつく。

「さすがにそれは止めろ。お前の体格でタックルを耐えることはできない」

清香はうう…と軽く呻く。

そう言われると思っていた。


レシーバーというポジションはタックルをよく受ける。

いくらレシーバーが身軽でなければならないとは言っても、体格が出来ていなければすぐに負傷するのがこのポジション。


『じゃあ…ランニングバック(RB)?』

「怒るぞ」


RBは最も怪我をしやすいポジションと言われている。

中央突破した場合、ディフェンシブラインやディフェンシブエンド、ラインバッカーからのタックルをもろに受けることになるのだ。

プロの世界では五人が一人のランニングバックの上に積み重なる場合もあり得る。


ジョンが少し声を尖らせたことに震える清香。

さすがに冗談を言う余裕はないということなのだろう。


『…でも私は練習試合には出ないんだし』

「ああ、試合には出さない。だがポジション練習に出さないとは言っていない」

『う、嘘…!本当に!?』


基礎練習にしか参加できないと思っていた清香。

ジョンの言葉にはしゃぐ。


「実は、お前がなんと言おうとポジションは決めていた」


え…と驚いた顔をする清香。

なんで聞いたの、とは言えなかった。



「お前はラインバッカー(LB)だ」

『!!』


思ってもみなかったポジションに驚く。

LBといえばタックルをする力はもちろん、体格も多少なければならない。


『私の体格じゃ…』

「体格なんて関係ないんだよ。大事なのはお前がやりたいかやりたくないか」

オフェンスポジションはタックルを受けるが、ディフェンシブポジションはタックルをする側。

ジョンがレシーバーやバックスを拒否した理由はそのためだ。


「クォーターバック(QB)スパイって知ってるか?」

『う、うん。QBの動きを監視するんだよね』

「お前はほぼ考え得る全ての攻撃パターンを覚えている。だからこそQBの動きを読むんだ」


不意をついてQBが走るならそれをタックルすればいい。

そしてRBが走ってきたら他のLBやラインにまかせればいい。

つまりお前はQBの解析に徹底するんだ。


ジョンの言いたいことは要約するとこういうことだった。


『なるほどね…』

「お前は筋肉で人を判断できるくらいだ。QBの監視なんてお手の物だろう」

『それは違うけどね!?』


清香にとって筋肉とは、人を判断できるという材料というよりは、 人を判断する項目にあるという程度だ。

弟は別だけど、と苦笑しながら考える。


「やってくれるか」


清香は笑った。


『やりたいかやりたくないか、なんだよね?』


もちろん…


『やってみせるよ』


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