21st down
帰るために泥門の正門を出る。

薄暗くなっているので来た方向がよく分からなくなってしまった清香。

どうしようかときょろきょろしていると、何故か目の前に車が止まった。

よくありがちな灰色のミニバンの窓が下りる。

「キミ!もしかして、進清香ちゃん?」

中からひょいと顔を覗かせたのはアフロの男性。

清香は見たことがないなーと首を傾げる。

ごめんごめん!と車を下り、名刺を差し出してくる男性。

『…スポマガ社?』

「僕、スポマガ社でアメフトの記事を専門に書いている熊袋といいます!」

清香はいつも月刊アメフトの記事の最後に書いてあった名前を思い出す。

『ああ!月刊アメフトの記者さんですね』

「そうです!いやー進さんに会えるなんて嬉しいなあ!」

清香の手を握りしめぶんぶんと振る熊袋。

「三年前、アメリカのアイシールド21を取材したのは僕じゃなかったんですけど、その記事にキミのことも書いてあったよ!」

『あー…そういえばそんなこともあったような』

清香は昔の記憶を思い出す。

あのときは選手兼メンタルトレーナーとして取材されたんだっけ。

「いやー泥門の練習を見に来てよかった!まさかこんな大物に会えるなんて」

『大物なんて、そんなことないですよ。ただチームにいただけです』

いやいやと首を振る熊袋。

謙遜したつもりもなかった清香は苦笑した。

「ところで、何故泥門に?」

『秘密です』

「え!教えてよ!」

メモ帳を取り出し、鉛筆のペン先を舐める熊袋の様子を見て慌てる清香。

『ほら、今度そちらの主催でアメリカと戦うから…』

あとは察してください、と付け加えると熊袋は興奮したようにメモ帳に書き込む。

「記事にしても!?」

『ダメです』

残念そうにメモ帳をしまい込む熊袋。

「あ、そうだ。エイリアンズと知り合いなら空港で一緒に出迎えるかい?」

清香の目つきが変わる。

『いいんですかっ!?』

「あ、ああ。通訳にもなるから、簡単なバイトとして雇おうか?」

『いえ、バイト代とかはいりません。エイリアンズと直に会えるだけで十分ですよ!!』

清香の食いつきように若干押されながら熊袋は清香と連絡を交換した。

「色々話も聞きたいから、自宅まで送ってあげようか?」

清香は即頷く。
願ってもないことだ。

車に乗り込むと、清香は時刻を確認するために携帯を取り出す。

そして着信のランプが点灯していることに気づく。

清香は熊袋に了承を得ると、誰からかも確認せずにその電話に出た。


「遅いわよ!!」

耳元で響く声。

その声は英語だった。

清香は慌てて名前を確認する。

そこには”Sarah”と書かれていた。

『ひ、久しぶりだね。元気?』

清香も英語で返す。

熊袋が食いつき気味に見てきたが気にしない。

「ええ、元気よ!…じゃないわよ!!何度電話したと思ってるの!?」

関西人も驚きのノリツッコミ。
清香はごめんと素直に謝る。

「タケルから伝えてもらうように言っておいたのに…」

『え、大和?』

「メール来なかったの?」

清香は東京駅で大和のメールを無視したことを思い出した。

『急ぎじゃないと思って見てなかった…』

「あなた携帯電話の意味分かってる?いつでも連絡がとれるように携帯できる電話機ってことでしょ?」

何故か携帯の定義を説かれてしまった。

「いるのよね時々。マナーモードにして全く応答しない人」

そしてさらに愚痴まで言われてしまった。

『私だね』
「そうよ」

即答されてしまった。

『と、ところで、急にどうしたの?』

「今度そっちのデーモンとエイリアンズが戦うでしょ?」

泥門ね、と訂正する。

「私ノートルダム大付属中を卒業してテキサスに帰ったのよ」

これは清香が神龍寺で過ごしていた頃に聞いた話だ。

清香は相づちをうつ。

「そこで地元のサンアントニオじゃなくて、ヒューストンの学校に通いはじめたのよ」

これは初めて聞く内容だ。

清香はヒューストンにある学校を考える。

『…あれ?』

「分かったかしら?」

『もしかして…NASA高?』

「大正解!」

清香の知っているヒューストンの学校はNASAしかなかったので、思いつくのは簡単だった。

しかしまさかNASA高にサラがいるなんて。


「ということで、今度の日本遠征、私も行くわよ!」


清香は、えええええ!と大声を出す。

『サラ、NASA高でもチア頑張ってるんだね!』

「当然じゃない!!今は副キャプテンよ!」

ぱちりとウインクするサラが目の前に見える気がした。

「着くときにまた連絡するわ!迎えに来てよね!」

『うん、もちろん!』

言われなくても行く予定だったけどね、とは言わなかった。


電話を切ると熊袋から追求される清香。

清香が相手はアメリカの女友達だ、と言えば納得してくれた。

車内で泥門の戦略やアポロの横暴さについて熊袋から聞いている間にあっという間に自宅付近へ着いてしまった。

近くのスーパーで下ろしてもらう。

「本当にここでいいのかい?」

『ええ、ここから10分ほどですから』

本当にありがとうございました!とお辞儀をすると、熊袋は笑って車を発進させた。


大和のメールを確認すると、やはりサラの件だった。

大和と私が今日メールアドレスを交換したことをサラは知らなかったらしい。

『今度会ったら弁解しよっと…』

清香はそう呟くと、自宅へと向かった。


そしてもう一つ思い出す。

『い、今からなんて言って弁解しよう…』

40番の背番号を思い出しながら清香は深いため息をついた。


__to be continued


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