『確かこの辺だったよね…』
道行く人に方向を尋ねながら歩き続ける清香。
六人目に聞いたとき、やっと泥門高校が見えてきた。
清香が泥門のグラウンドに入ると、サッカーチームがPK戦をしていた。
練習なのだろうと勝手に考えて、部室を探そうと思っていると選手が制服を着ていることに気づく。
よく目を凝らすと…
『セナ…?』
キーパーはモン太だ。
一人知らない人がいるが、明らかにアメフト部対サッカー部だった。
清香は足早にその方向へ向かう。
階段を下りると、下にはたばこを吸っている人と犬がいた。
そのたばこの人の後ろ姿に見覚えがあり、話しかけようとすると、その人物の蹴る番だったようで、グラウンドの中心へ歩き出してしまった。
犬もその方へ向かう。
どうしてアメフト部がサッカーをやっているんだろうと思いつつ、階段に座ってそれを観戦する。
たばこを吸っていた人はとび職の服を着ている。
そして清香は思い出した。
『…厳だ!!』
たばこを吸っていた人、つまり武蔵厳はサッカーボールの前に来ると、左足に体重をのせ、前傾姿勢をとる。
『あの構えって…』
武蔵は勢いよく助走をつけると、右足を振り上げ、ボールを蹴る。
そのボールは凄まじいスピードとパワーでゴールネットへと。
『厳は、キッカーだったんだ』
無意識に零れる声。
櫛をもっていた、清香の記憶にはなかった人物が叫ぶ。
「俺は佐々木コータロー!何モンだおっさん!!テメーの名前は!?」
武蔵は振り向く。
「武蔵厳。”武蔵(ムサシ)”っつった方が分かりやすいか?」
清香ははっとし、自分の記憶を遡る。
ムサシ…聞いたことある。
日本に帰ってきたとき、アメフト雑誌でその記事を見たのだ。
もちろん伝説的な話で、清香は信じていなかった。
60ヤードマグナム…。
プロでも64ヤードが最長記録だ。
そんな距離から18.5フィート(5.6メートル)の幅に蹴り込むなんて、高校生じゃ不可能に近い。
目の前にいる男がそうだというのだろうか。
「”60ヤードマグナム”だあ!?」
「あれは嘘だ」
「もしホントなら今この場で…って嘘かよオイ!!」
武蔵はポケットからたばこを取りだし、吸い始める。
「ハッタリが大好きなバカヤローがいてな…」
清香はしらっとした顔で蛭魔か…と考えた。
佐々木コータローというらしい男はボールを蹴ると振り向き、勝負しろ!と言う。
清香は遠目でその様子を眺めていた。
セナとモン太が勧誘しているのも見える。
やめた理由は色々あるんだろうな。
清香は少し遠くに移動する。
今武蔵と顔を合わせても話す言葉が見つからなかったためだ。
校門からランニングを終えた選手が入ってくる。
先頭は蛭魔。
清香は少し横に避ける。
まもりが自転車置き場に自転車を運ぶ際に、まもりに近付き、話しかける。
『まもり、久しぶり!』
「あら、清香ちゃんじゃない!」
自転車をとめ終わり、こちらに駆け寄ってくるまもり。
清香は笑った。
『ランニングお疲れ』
二人で部室の方へ歩き始める。
部室の中に入ると、コーヒーとシュークリームが出された。
中には着替えている選手もいる。
『失礼しまーす』
清香に気づいた数人が慌てて制服に着替える。
『あ、お構いなく!』
「(こっちが気にするんだよ!!!)」
シュークリームにかぶりつく清香。
そこへ入ってきたのは栗田と蛭魔。
「…くつろいでやがるし」
「あ!前雑誌で見たことある人だよね、蛭魔!」
アメリカ時代のことを言っているのだろう。
清香ははらはらと手をふった。
『どうも、シュークリームとコーヒーいただいてます!栗田良寛くん…と妖一さん』
気色悪いと銃口を突きつけられるも、無視して食べ続ける。
「てめぇが来るのを許したのはこのためだ」
バン!とホワイトボードを叩く蛭魔。
そのホワイトボードには「アメリカ対策会議」とあった。
『…なるほどね』
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