17th down

『確かこの辺だったよね…』

道行く人に方向を尋ねながら歩き続ける清香。

六人目に聞いたとき、やっと泥門高校が見えてきた。


清香が泥門のグラウンドに入ると、サッカーチームがPK戦をしていた。

練習なのだろうと勝手に考えて、部室を探そうと思っていると選手が制服を着ていることに気づく。

よく目を凝らすと…

『セナ…?』

キーパーはモン太だ。

一人知らない人がいるが、明らかにアメフト部対サッカー部だった。


清香は足早にその方向へ向かう。

階段を下りると、下にはたばこを吸っている人と犬がいた。

そのたばこの人の後ろ姿に見覚えがあり、話しかけようとすると、その人物の蹴る番だったようで、グラウンドの中心へ歩き出してしまった。

犬もその方へ向かう。

どうしてアメフト部がサッカーをやっているんだろうと思いつつ、階段に座ってそれを観戦する。


たばこを吸っていた人はとび職の服を着ている。

そして清香は思い出した。

『…厳だ!!』


たばこを吸っていた人、つまり武蔵厳はサッカーボールの前に来ると、左足に体重をのせ、前傾姿勢をとる。

『あの構えって…』

武蔵は勢いよく助走をつけると、右足を振り上げ、ボールを蹴る。

そのボールは凄まじいスピードとパワーでゴールネットへと。

『厳は、キッカーだったんだ』

無意識に零れる声。


櫛をもっていた、清香の記憶にはなかった人物が叫ぶ。

「俺は佐々木コータロー!何モンだおっさん!!テメーの名前は!?」

武蔵は振り向く。

「武蔵厳。”武蔵(ムサシ)”っつった方が分かりやすいか?」

清香ははっとし、自分の記憶を遡る。


ムサシ…聞いたことある。

日本に帰ってきたとき、アメフト雑誌でその記事を見たのだ。

もちろん伝説的な話で、清香は信じていなかった。

60ヤードマグナム…。

プロでも64ヤードが最長記録だ。

そんな距離から18.5フィート(5.6メートル)の幅に蹴り込むなんて、高校生じゃ不可能に近い。


目の前にいる男がそうだというのだろうか。


「”60ヤードマグナム”だあ!?」

「あれは嘘だ」

「もしホントなら今この場で…って嘘かよオイ!!」

武蔵はポケットからたばこを取りだし、吸い始める。

「ハッタリが大好きなバカヤローがいてな…」

清香はしらっとした顔で蛭魔か…と考えた。

佐々木コータローというらしい男はボールを蹴ると振り向き、勝負しろ!と言う。

清香は遠目でその様子を眺めていた。

セナとモン太が勧誘しているのも見える。

やめた理由は色々あるんだろうな。

清香は少し遠くに移動する。

今武蔵と顔を合わせても話す言葉が見つからなかったためだ。

校門からランニングを終えた選手が入ってくる。

先頭は蛭魔。

清香は少し横に避ける。

まもりが自転車置き場に自転車を運ぶ際に、まもりに近付き、話しかける。

『まもり、久しぶり!』

「あら、清香ちゃんじゃない!」

自転車をとめ終わり、こちらに駆け寄ってくるまもり。

清香は笑った。

『ランニングお疲れ』

二人で部室の方へ歩き始める。


部室の中に入ると、コーヒーとシュークリームが出された。

中には着替えている選手もいる。

『失礼しまーす』

清香に気づいた数人が慌てて制服に着替える。

『あ、お構いなく!』

「(こっちが気にするんだよ!!!)」

シュークリームにかぶりつく清香。

そこへ入ってきたのは栗田と蛭魔。

「…くつろいでやがるし」

「あ!前雑誌で見たことある人だよね、蛭魔!」

アメリカ時代のことを言っているのだろう。

清香ははらはらと手をふった。

『どうも、シュークリームとコーヒーいただいてます!栗田良寛くん…と妖一さん』

気色悪いと銃口を突きつけられるも、無視して食べ続ける。

「てめぇが来るのを許したのはこのためだ」

バン!とホワイトボードを叩く蛭魔。

そのホワイトボードには「アメリカ対策会議」とあった。


『…なるほどね』


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