練習が一区切りつき、休憩に入ったようで、ロッカールームに選手がぞろぞろとやってくる。
清香は居辛そうに横に避ける。
その姿に気づいた少女が駆け寄ってきた。
「清香さん?」
『あ、花梨!練習お疲れ』
それに気づいた清香は花梨に笑いかけた。
横にいた大和は花梨と清香の親しげな様子に驚く。
「知り合いなのか?」
「清香さんとは今日の練習前にお会いして」
大和はへえと相づちを打つ。
清香はロッカールームに入ってくる一軍選手の筋肉をちらちらと見ていた。
それに気づいた花梨は不思議そうに清香を見つめる。
「何されてはるんですか?」
『筋肉見てるの』
淡々と述べる清香。
大和は懐かしそうに目を細めた。
「それを見るのは久々だな」
『大和の筋肉も見たよ?以前と比べるとかなりついてるね』
抱きしめられたとき驚いたよ、と少し先ほどの感触が残る腕をさする。
「驚くところ違うような…」
花梨は苦笑いで清香を見る。
大和は慣れているとでもいうように肩をすくめた。
『ん?あの人…』
清香は最後に入ってきた選手を見て、目を見開く。
「どうかしたのか?」
清香が感心している様子を見て、大和もその選手を見た。
『あの人…すごく練習熱心なんだね』
「ああ、鷹だね」
大和はおーい!と鷹と言われた選手を呼ぶ。
選手がこちらへやってくる。
その手には本。
その選手は部外者である清香を見て少し怪訝そうな顔つきになる。
「なんだ?大和」
「清香が君のこと誉めていたよ」
「清香…?」
この方ですよ、と花梨が清香を示す。
清香はにこりと笑って挨拶をした。
『清香っていうの。よろしくね!』
「はあ」
面倒くさそうに清香の挨拶に応える鷹。
清香はそんな様子などお構いなしに鷹の筋肉を間近で観察する。
『脚の筋肉…凄いね。二、三年の練習じゃこんな風につかない。幼い頃から跳躍の練習とかしてたの?』
清香の真面目な表情に、鷹は少し身構えた。
「何故、分かるんですか」
『筋肉見れば分かるよ』
清香の朗らかな様子に鷹は少し驚く。
今まで自分のことを判断する材料といえば、親である本庄勝の息子であるということが多かった。
今でも言われることは多い。
しかしこの急にやってきた人物は自分のことを自分として判断してくれた。
鷹にとってその経験は初めてに近く、新鮮なものだった。
「本庄鷹と、いいます」
鷹は本を閉じ、清香の目を見つめる。
そして自分の名字を含めた自己紹介をした。
『…本庄?』
清香は聞き覚えのある名字に首を傾げる。
横にいた花梨は野球選手の本庄選手の息子なんですよ、と付け加えた。
清香は暫く黙って記憶を呼び起こす。
本庄……って、確か私がアメリカに行く前くらいに活躍してた選手だっけ。
『集英の?』
鷹は気怠げに頷く。
清香はその様子を見て悟った。
あまり親のことを言われるのが嫌なんだな。
『サイン貰い放題だね』
清香は笑って応える。
それに驚いたのは鷹。
「俺の親の…本庄勝の血が入っているから、とは思わないんですか」
清香はきょとんとする。
しかしすぐにその意図が読めたかのように目を細めて笑った。
『全然!遺伝でそんな筋肉できるはずないよ。それを作ったのは鷹くん自身でしょ?』
鷹は息を飲んだ。
こんなことを言ってくれる人は今までいなかった。
大和は行動で示していてくれたが、言葉で言われるのは初めて。
鷹は少し微笑んだ。
「た、鷹くんが…笑った?」
花梨は驚いて鷹の様子を見ている。
「鷹って、呼んでください」
清香は鷹が差し出した手を握る。
『私も、敬語使わなくていいからね』
そして満面の笑みで続けた。
『よろしくね、鷹!』
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