19th down
試合はアルマジロズの一方的な点取りゲームだった。

モーガンの活躍がとても目立つ試合だった。

さすがの二人も試合がいい展開になるにつれて口数も減り、最終的には清香に解説してくれるようになっていた。

三時間にも及ぶ試合が終わり、得点は42対3。
アルマジロズの圧勝だった。

「やっぱすげーな」

バッドはクルーに飲み物を注文する。

試合が終わったのにこれ以上何を見るのだろうか、と清香は首を傾げた。

『クリフォード、今からまだ何かあるの?』

「ああ、言ってなかったな。今から俺とコイツはモーガンと話すことになっててな」

清香は驚きすぎて肘を手すりにぶつける。

バッドは慌てて清香の肘を確認する。

清香は痺れる肘をさすりながら大丈夫だと言った。

「向こうから呼ばれたんだよ」

『車の中で呼ばれたって言ってたのはモーガン選手からだったの!?』

「だからってそんなに驚くことないだろ」

なんでそんなに驚かないの…?
清香はクリフォードを不可解そうな顔で見つめた。

「キヨカ、こいつだけだから。こんなに神経図太いのはさ。俺はかなり驚いてる」

バッドはこそっと清香の耳元で囁いた。

確かにクリフォードは普通とは違うところが多いとは思っていたがこれほどだとは。


がちゃりと後ろから音がし、清香とバッドは勢いよく振り向く。

『あ、ああああ!!』

「来たか…」

クリフォードはゆっくりと立ち上がる。
その様子は威厳すら感じる。

バッドも急いで立ち上がる。

清香はそれを見て迷った末、勢いよく立ち上がり、お辞儀をした。

「来てくれたみてーだな!クリフォードにバッド!それと……お嬢ちゃんは知らない顔だな」

アルマジロズのエースランナー、モーガンだ。

清香はすっかり萎縮してしまい、声が出ない。

それを確認したクリフォード。

「コイツは俺が招待した」

『す、すいません!出て行きますね!』

清香はイスを大回りし、クルーの横を通り出て行こうとする。

しかし、それをモーガンが止めた。

「気にするな!自由に招待して良いって言ったのはこの俺だからな」

間近で見るモーガン。

清香はまだ着替えていないそのユニフォームの上から無意識に筋肉のつき方を確認していた。

『(うわ…これがプロの体つきか)』

清香はあまりにも普段見ている中学生との体つきの違いに驚いていた。

「嬢ちゃんアジアのどこから来たんだ?」

この質問を何度されただろうか。
清香は今までのように日本だと答えた。

「日本か!スシ美味いよな!」

モーガンはカカカと笑う。
意外と親しみやすい人なのだろうか。

清香は少し緊張がほぐれた気がした。


モーガンがクリフォードとバッドの方へと近寄っていく。

「ここに集まって貰ったのはな、俺の引退後のことだ」

清香は少し遠くから聞いていたが、その言葉に目を見開いた。

「引退後、俺はアルマジロズのオーナーになる予定だ」

「少し早すぎやしないか」

クリフォードは相変わらずふてぶてしい態度をとっている。

もしかしてすでに顔見知りなのだろうか。

「カカカ!初対面にも関わらず遠慮のない言い方してくれやがるな!」

違った。初対面だった。
それなのに何この態度。

清香は改めてクリフォードの器の大きさに驚いた。

「アルマジロズのオーナーになって、どうするつもりなんすか」

バッドは少し緊張しているようだが、清香ほどではない。

「もちろんアルマジロズを優勝させる」

「あんたのことだ。それだけじゃねーだろ」

モーガンはカカカと笑い、その通りだと言い放った。

「今から五年後だ!それまでにお前等は一流のプレーヤーになってるだろう!」

「まあ、五年後は一番乗ってる時期だろうね」

バッドは頭をかきながら呟いた。


「ワールドカップユースを開く」


清香は息を飲む。

ユース大会。
ワールドカップというならばもちろん日本も出場できる。

「なるほどな。それで最強のアメリカを世界に見せつけたいってとこか」

「分かってんじゃねーか!」

カカカと笑うモーガンは清香の方を向く。
清香はびくりと居住まいを正す。

「嬢ちゃん、もちろんだがこれは極秘だ」

『わわ分かってますよ!』

サングラスの奥の瞳が面白げに笑った気がした。

「というわけで、お前等の他にも優秀な人材に声をかける予定だ。まずは地元に住んでるお前等から声をかけさせて貰ったがな!」

「それは光栄だ」

バッドは笑って肩をすくめる。

さすがのクリフォードも少し微笑んでいる。
アメリカ代表の内定を貰ったようなものだ。


モーガンが部屋から出ていき、バッドはその瞬間子供のようにはしゃぐ。

「うおおワールドカップだってよ!」

『ワールドカップか…五年後なんてあっという間だね』

「お前等騒ぎすぎだ」

「クリフォードはなんでそんなに落ち着いてられんだよ!」

クリフォードはぼそりと呟く。

「俺も嬉しいっての」

『…クリフォードが、嬉しいって』

「珍しいこともあるもんだ」

「お前等な!!!」



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