9th down

相手側の22番も持っていたボールを落とした。


「…まさか」


清香の横にいたヘラクレスは再度二人を交互に見る。

しかし二人の反応はさきほど天間と清香が示していたようなものとは全然違っていた。


「ど、どないしたんや」


ヘラクレスは二人の異様な雰囲気を見て話しかけづらそうに清香に尋ねる。


『あの……あの22番…』

「ああ、大和や。大和猛!アメリカ育ちなんやで」


清香は息を飲む。


22番がどんどん近づいてくる。

清香は目を離さなかった。
離せなかった。


『やっと…』

「ああ、やっと会えた…」


清香の目の前に22番の文字が広がる。

その瞬間抱き留められた。

プロテクターが痛いが、そんなことを気にする余裕はなかった。


「ななななにしとんねん!!」


横にいたヘラクレスは驚いて辺りを見渡す。

周りの選手達はその二人の様子を見て、驚いて練習を止めて眺めていた。


「そういうラブラブな展開!なんやそれツッコミ待ちか!?」


ヘラクレスは黙り込む二人を見て我慢できずに叫んだ。


清香はヘラクレスの言葉に我に返り、大和の胸を押し返した。

「あ…ごめん」

『こっちも、突然訪ねてごめん』

大和はなおも言葉を続けようとする。

しかしヘラクレスの言葉によって遮られた。


「お二人さん、イチャつくならここはやめといたほうがええで。かなり目立っとる」


はっとして辺りを見回す清香。

そして顔を真っ赤にした。


『ごごごごごめんなさい!!』

「俺も我慢できなかったよ」


爽やかな笑みを浮かべる大和。
目立ったことに対しては、少しも悪びれていない。


ヘラクレスは大和と清香の背を押し、急いでロッカールームへと向かわせた。



「どういうことは説明してもらおうかいな」


ヘラクレスは腕を組んで二人を見る。

恐らく怒ってはいないのだろうが、この状況が理解できていないらしく、今も二人を見比べている。

「アメリカでのチームメイトだよ」

『色々会ってアメリカで別れちゃって行方知れずだったんだよね』

ヘラクレスは、ほお…と納得する。

「じゃあ何年ぶりなんや?」

『うーん…二、三年ぶりかな』

「長年会えなかったからもっと長いと思っていたよ」

ヘラクレスは二人の事情を軽くは理解したようで、穏やかな表情に戻る。

「でもあんな場所で抱きつくのはあかんやろー!」

『それは…反省してます』

「日本文化は慣れてないんだよね」

そう言い肩をすくめる大和。
すっかり仕草がアメリカ仕込みだ。

『それにしても、また背伸びたね?』

「そうかな。清香こそ髪切ったんだね」

二人にしか分からない会話が始まり、ヘラクレスは居辛くなったのか、お二人さんだけでゆっくりー!と言い残しグラウンドへ戻っていった。


二人きりになる。
急に気まずくなってしまった。

『誰のせい?』

急な清香の言葉。
しかし大和は察したようで、絞り出すようにして呟いた。


「Mr.ドンだ」


清香はため息をつく。

『やっぱり』

「Mr.ドンから聞いたのか」

『クリフォードから聞いた』

大和にはアメリカ時代にクリフォードの話をしていたので、クリフォードの存在は知っているようだった。

『ごめん』

清香の突然の謝罪に眼を見開く大和。

『私が、Mr.ドンの考えに気づいて説得出来ていたら良かったのに』

大和は清香の肩に手を乗せる。

とても大きい手。

その手が気にするなと暗示しているようで。

清香は何故か泣きそうになった。



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