8th down

グラウンドを見る。

さきほどのヘラクレスの言葉が正しいのならヘラクレスを抜いた総員245人がこのグラウンドにいることになる。

そこら中に選手がいる。

1軍の選手がどれかなんてプレーを見ない限り分からない。

清香は自然とその目をユニフォームの背番号に走らせていた。

21番を探すが見あたらない。

それどころかこれだけ大人数のため、同じ背番号の選手もいる。

『ヘラちゃん、1軍を見分ける方法ってある?』

「うーん…むずいかもな!あ、でもあそこにいる女子選手は1軍のQBなんやで」

校舎の近くでパス練習をしていた6番を指差すヘラクレス。

『花梨ちゃんだよね。1軍だったんだ』

「なんや知っとるんか」

『さっき校門で鉢合わせしたんだ』

おもろい偶然やなあと笑うヘラクレス。
さすがにヘラちゃんに対しての笑いは治まったようだ。

「あとは…せやなあ。あ、あそこにおるサングラスかけた33番なんてどうや?」

『しなやかだけどつきすぎていない、そして上半身よりも下半身の脚力のための筋肉のつき方は…ランニングバック(RB)だよね?』

「おお、ご名答!なんやそれ特技なんか!」

『いや…特技っていうか癖っていうか…。それにしてもあのRBどこかで見たことある気が』

33番のRBはヘラクレスが指を指していたことに気づく。
そしてボールを近くにいた22番に手渡し、こちらへやってきた。

「よおヘラクレス!俺指さしてたりした?」

清香はヘルメットを外したその顔を見た瞬間に硬直した。

「酒呑童子!あ、紹介がまだやったな。こいつは1軍RBの…」

ヘラクレスの言葉は33番の声で遮られる。

「お前!清香じゃん!!」

『て、天間先輩…!』

ヘラクレスはよく分からずに二人を交互に眺めている。

「ひっさしぶり!どう?俺のオンナになる気になったか?」

清香は顔をひきつらせたままヘラクレスに無言で助けを求める。

「お、おい天間、なに言っとんねん」

「俺とコイツは深い付き合いが」
『ありません』

天間が肩に手を回すのを避けながら清香は言い放った。

頭に疑問符を浮かべるヘラクレスに清香は説明をする。

『前の学校で色々ありまして』

清香が神龍寺にいたころ、一番最初に清香が女と気づいたのは天間童次郎だったのだ。

「男子校に咲く一輪の花ってとこ?」
『違いますけど』

「ま、まあ分からんけど色々あったんやな…」

天間が再度肩に手を回そうとするのを阻止して清香はヘラクレスの方へ避難した。

「つまんねーのー!折角会えたんだから仲良くしよーぜ!愛してるぜ清香!」

『愛してるなんて軽々しく言わないでくれますか』

「なんかお前酒呑童子に対して冷たくないか」

清香はため息をつく。

あのときの天間は清香が女と分かった瞬間から告白の応酬だったのだ。

されるこっちとしてはたまったものではない。

気持ちが籠もっているならまだしも、同じことを違う人にたくさん言っていたのだから。

『女癖の悪さは治ってないみたいですね』

「俺は皆を均等に愛してるぜ!」

そういうと天間は清香にウインクして練習へ戻っていった。


「…なんか疲れとるな」

『まあ、大丈夫です…多分』

「さすがにもう知り合いはおらんやろうな。今んとこ1軍2人中2人と知り合いやで?」

『はい。もういません』

清香はメモ帳を取り出し、天間注意と殴り書きをした。


「あ、あそこで天間と練習しとった22番も1軍やで」

清香はポケットにメモ帳をしまいながらその選手を見た。



その選手と目があう。



清香はメモ帳を落とした。

それにも気づかないほど清香は動揺していた。


『嘘』


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