「へえ、あんた王城のメンタルマネージャーなんや」
『はい。あ、でも今回はただの見学なんですよ?ちょっとスカウトマンの人たちが本気にしすぎちゃって』
ヘラクレスは笑う。
「気にせんでええ!メンタルマネージャーとしてスカウトされたん見るのはあんたが初めてやけどな!」
ヘラクレスはバスガイドの格好をしている。
その大らかでユーモラスな様子からはキャプテンとしての人望が厚いことが分かる。
ヘラクレスはふと思い出したように言った。
「せや、さっきのヘラちゃんってのおもろいからそのままでもええで」
清香は慌てて謝る。
「気にせんでええって!敬語もやめてええんやでー、あんたおもろいからな」
ヘラクレスの言葉に清香は少し笑う。
『そ、そうかな?じゃあ敬語やめさせてもらっても…?』
「お、順応早っ!なんやアメリカ育ちか!」
清香はびくりとする。
『え…な、なんで分かったの!?』
ヘラクレスはその言葉に笑って答えた。
「アメリカ育ちは敬語慣れしてへんって知っとるからな!」
『なるほど…』
別に全員が敬語慣れしてないわけではないのだが、確かに長く住めば住むほど日本語の敬語の使い方が分からなくなることは確かだ。
実際清香は帰ってきてすぐに敬語を話しづらかったせいで、高見と初めて会ったときにタメ口で話してしまったという経験がある。
それ以来高見とはタメ口で話す仲だ。
「着いたで!ここが1軍のロッカールームや!もう練習始まっとるから選手はおらんし、入っても大丈夫や」
ちらっと清香が中を覗くと、ずらーっと広がる個人のロッカールーム。
『うわー…すごいな』
「1軍は全員で45人!5軍と6軍に続いて多いんやで!」
清香はメモ帳に書き込む。
もちろんヘラクレスには了承をとった。
「2軍は21人。これは1軍と3、4軍への移動が多いせいや。3軍4軍も23、27人と結構少なめなんやで」
清香は頷きながらメモを続ける。
『ヘラちゃんは全部把握してるんだね』
ぶふぅと笑うヘラクレス。
『やっぱヘラちゃんやめようか』
清香は冷たい目でヘラクレスを見る。
「いや…ええねん!せや続きな!5軍が46人で6軍が94人。やっぱ軍が落ちるごとに人数が増えるのはしゃーないことやな」
『そうだね。この5、6軍のメンタルケアを頼まれたんだけど』
ヘラクレスは真面目な顔になる。
「うーん。俺も気にはなっとったんや。今は上の奴は下の奴を引っ張るどころか逆効果になっとる。下が上に適わんと思った時点でそいつの成長は止まるからな」
『つまり、底上げを図りたいと』
ビンゴ!と大きな声で答えるヘラクレス。
『でもまずは1軍がどれだけ強いか…だよね』
「せやな。そろそろグラウンド行こか!」
清香はロッカールームから出る。
そのとき、近くのロッカールームのネームプレートに探し人の名前があることを清香は気づかなかった。
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