5th down

部屋の鍵をフロントへ預け、スカウトマンの待つロビーへと向かった。

今日はタクシーで向かうようだ。

あの高級車はなんだったのか。


ここから学校へは近かったようで、一五分もかからずにたどり着く。

スカウトマンに急かされてタクシーを降りると、目の前に広がるギリシャ風の建物。

「驚いたでしょう?ギリシャの神殿をイメージしているのです」


うちも欧米風の城なんですけどね。

なんていう大人気ないことは心の中にしまい込み、素直に感動した。


スカウトマンは見学のための手続きか何かがあると言って、清香に校門で待つように指示する。

待つのは嫌いではないし、見渡すだけでも見たことのない建物だらけで退屈しそうもない。

清香は二つ返事で了承した。


『それにしても…この校舎…すごいなあ』

少し遠くにいるにも関わらず、見上げるほど大きい。

清香は首を上に向かって曲げていると、横から声をかけられる。


「あ、あの…どちら様でしょうか?職員室へ案内しましょか…?」

おどおどとした女の子の声に慌てて振り向くと、金髪のすらっとした少女がいた。

制服とカバンを見る限りまだ新しさが残っているので一年なのだろうか。

清香は笑った。

『ありがとう。でも、すでに連絡はついてるんだ』

無理やり手渡されていた入学案内書の入った封筒をその女子生徒に見せる。

「あぁぁ、でしゃばってしまってスイマセン…」

ペコペコと謝る女子生徒に驚く清香。

『そんな!気にしないで!それにしても早いね、今日は学校ないんでしょ?自習とか?』

やっと落ち着いた女子生徒は清香の質問に慌てて答える。

「え、えと…部活で」

『部活か!文化部?』

清香は女子生徒全体を見る。

指先はとても綺麗だし、制服を着ているから筋肉の付き方もあまり分からない。

清香の偏見だが、その女子生徒は文化部所属のような見た目をしていた。

「えと…あ、アメフト部です…ハイ」

清香は目を見開いた。

まさか帝黒アメフト部とこんなに早く接触出来るなんて…。
しかも女子選手。

『ごめん、ちょっといいかな』

清香は軽く女子生徒の二の腕に触れる。

ひっ…と驚く女子生徒だが、すぐに清香は離れた。

『本当だ。しっかり筋肉もついてる』

指先を注視すると、微かに爪がかけているのが分かった。

かけているといってもきちんと手入れされていてぱっと見ならば分からない。

ボールを扱うポジションなのだろうか。


ぶつぶつ呟く清香を不審に思った女子生徒は不安そうに清香を覗き込んだ。

『あっ、ごめんね!まさかアメフト部だとは思わなくて』

「そ、そですよね…女の子がアメフトなんて…」

清香は慌てて訂正する。

『いや、私は変じゃないと思うよ?逆に嬉しいっていうか』

「嬉しい…?」

清香は黙り込む。

ここにはアメフト部を探るために来ているのだ。
清香があまりアメフトに関係があるということが分かったら情報が入りにくくなるかもしれない。

『スポーツが好きでいろんな雑誌読んでるからさ!アメフトもそこに載ってただけ!』

咄嗟に言い訳をしてその場をやり過ごした。


女子生徒は腕時計を見ると慌てる。

「いけない!こんな時間!スミマセン…朝練始まってしまうので…」

『あ、引き留めてごめんね!あ、最後に名前聞かせて?』

「あっ、小泉花梨って言います。え、えと…お名前は?」

清香は笑って答えた。


『清香だよ』


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