1st down
次の日、練習が休みだったので清香はすぐに家に帰ることにした。

先日編集したビデオを見るためだ。

珍しく清十郎も外で自主トレをしないということで、一緒に帰宅した。

終始無言に近い状態で家にたどり着く。

そして違和感に気づいた。


『清十郎、この黒塗りの高級車、何?』

「わからん」


父親かとも思ったが。
そうだ、父さんはアメリカだ。

ならばアメリカから帰ってきたのか。

いやそんなはずはない。

生真面目な父は一週間前に必ず連絡を入れる。


恐る恐る玄関のドアを開ける。

足下には高級そうな革靴が二人分置いてある。

玄関が開いたことが分かったのか、リビングから母さんがやってくる。

「あらおかえり。早かったわね」

『た、ただいま。誰か来てるの?』

母さんは思い出したようにため息をつく。

「帰ってもらうように言ったんだけどね、どうしてもって言うから」

清香は清十郎と顔を見合わせるとリビングへ入った。


そこには男性二人がいた。

ビシッとスーツを着てこちらを見て満面の笑みを浮かべている。

清香は少し顔が引きつった。

「清香、顔が引きつっている」

『ちょっと、ここでそれ言う!?』

清十郎の場をわきまえない発言に突っかかりながらも、清香は母さんから諭され、席につく。

清十郎も同様だ。


何これどんな四者面談?


そんな疑問が頭を巡るが、男性達の次の一言で清香は現実に引き戻される。


「今日足を運ばせてもらったのは、帝黒学園へのお誘いの為です」


清香は固まった。

清十郎も目を見開いている。

どこで住所を調べただとか、そういうのは聞いても意味がないことなのだろうが…。

『え、えっと…』

「ああ申し訳御座いません。驚かれるのも無理はない」

眼鏡をかけた男性が営業的な笑顔をつくる。

「王城学園のアメフト部には何人か注目している選手がいまして、進清十郎さんにも声をかけさせていただきました」

私関係ないじゃん!と内心毒づく清香。

清十郎はすぐに口を開いた。

「俺のプレーを見て声をかけてくださったことには感謝します。しかし俺が所属するチームは王城ただ一つであり、いくら請われたからといって今のメンバーを捨てることなど出来ません。俺は、今のチームで頑張って行きたいのです」

思わず感嘆の声を出してしまうほどに清十郎の受け答えは見事だった。

スカウトマン二人も何も言えなくなってしまった。


ならば、と眼鏡をかけていない方のスカウトマンが清香のほうを向く。

『え、私?』

「実は選手達からの要望でメンタルケアが出来るマネージャーを探してくれとのことでして」

メンタルケアが出来るマネージャーとか、なんて都合のいいセリフ…と思いながら清香は話を聞いた。

「我が帝黒には1軍から6軍まであります。なかには1軍にあがることに必死になるあまり、情緒的に不安定になってしまう選手も少なくありません」

確かに納得できる理由だと清香は思った。

『申し訳ありませんが…』

清香が清十郎のように断ろうとすると、清十郎を逃してしまったことでヤケクソになった眼鏡のスカウトマンが話し出す。

「お願いします!帝黒学園を一度、たった一度でいいから、見に来てください!」

清香ははっとした。

生で帝黒を見ることが出来る。
そして、クリスマスボウルまで先延ばしにする予定でいた関西チームのデータも収集できる。

これは、妙案だ。

清香がそう考えていることなど知らないスカウトマンは悩む清香を見て手応えを掴んだと思ったのか、さらに続けた。

「移動費も宿泊費も、ご…娯楽費も出しますよ!」

娯楽費という言葉に清香は飛びついた。

元々アミューズメントパーク系が好きな清香。

大阪に大きな娯楽施設があったことを思い出す。

『一度だけなら見ましょう!!』

その言葉に一番驚いたのは清十郎だった。

家に帰って試合のビデオを見る予定だったのに、何がどうしてこうなったのか。


その後、日程を今週末の金曜の夜から二泊三日と決めると、スカウトマンは笑顔で帰って行った。


怖い顔をする清十郎に清香は慌てて説明をする。

本物のアイシールド21を探すこと。
もちろん娯楽施設のことは言わない。

言ったら最後、説教が始まるに決まっている。


母さんはその様子をにこにこした様子で見守っていた。


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