リムジンでスタジアムに行くのはどうかと思ったが、結局クリフォードはそのまま向かった。
しかも入っていったのは裏口。
清香は驚いて窓越しに外を眺めた。
『わ、私こういうとこ来たことないんだけどさ、普通裏口に入らないよね?』
「そうだな」
『なら、どうして?』
「普通じゃないからだ」
清香は一度は納得するが、さすがにおかしいと思い慌ててクリフォードの方を見る。
『普通じゃない…って…つまり、来賓的な??』
クリフォードは必死な清香を見て笑う。
「お前なんて面してんだ」
『う、うるさいな!!』
「来賓っていうか、呼ばれたんだよ」
清香は驚く。
「俺は優秀だからな」
実際にクリフォードのプレーを見たことのある清香は事実に対して何も言えなくなる。
優秀ならばアメフトの来賓チケットが手にはいるのだろうか。
そんなことはないと思うのだが。
『優秀と言えば、うちのチームに日本からの留学生選手が来てね、アメフト部にいるんだけど、とっても凄いんだよ』
クリフォードは少し眉を動かす。
「へえ。お前が誉めるんならすげーんだろうな」
『絶対倒れないことを売りにしててね、大和魂を持ってるんだよ』
「…ヤマトダマシイ?」
『日本人としての心意気かな』
清香は大和を思い出して笑った。
それを見て顔をしかめるクリフォード。
「お前が正直なのは知ってる。お前がそいつを誉める理由は日本人選手だからってだけじゃなさそうだな」
『うん。短期間のうちにうちのチームのトップクラスになっちゃった』
クリフォードは残りのレモネードを煽ると、腕を組み直して目を閉じた。
『アイシールド21』
清香の何気ない呟き。
クリフォードは下唇を噛んだ。
『彼ね、自分から最強のランナーを名乗ってるんだ。自分の退路を断つために』
「やけに肩入れするんだな」
『だって本当に実力があるんだもん』
清香はクリフォードのもやもやした気持ちに気づかずに、大和のことを話し続ける。
クリフォードが次第に機嫌が悪くなっているのも気づかない。
「…そうか」
リムジンが止まり、清香とクリフォードは車から下りる。
クルーから案内され、特別席へと向かう。
清香は大和の話を忘れ、きょろきょろと辺りを見渡している。
特別席につき、クリフォードはノンアルコールシャンパンを頼んだ。
清香はよく分からなかったので、クリフォードと同じものを注文する。
席は、フィールド全体を見渡すことが出来る素晴らしい場所だった。
一つ難点をあげるとするならば、通常観客席が少し離れているのでその熱気を体験出来ないことだろうか。
清香の隣には空席。
そもそもこの特別席のある個室にはクリフォードと清香と専属のクルーしかいなかった。
シャンパンが届き、クリフォードはそれに口をつける。
清香も少し飲んだ。
そのときだった。
クルーしかいないはずの後方から誰かの声が聞こえたのだ。
「よお、クリフォード。やっぱりお前も呼ばれてたんだな」
清香はシャンパングラスを置き、振り向こうとした。
それを止めるクリフォード。
その顔は心底面倒くさそうな顔をしていた。
「…お前が呼ばれていたのなら来なければ良かったな、バッド」
クリフォードは清香を止めたまま、声の方を向かずにそう言い放ったのだった。
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