神龍寺のメンバーは後片付けを始める。
一方で王城メンバーはミーティングを始めた。
今回、清香は参加しなかった。
初めから居たわけではなかったし、何より神龍寺のメンバーのことを観察していたかった。
清香はその間に小春と共に片付けを始めていた。
片付けをしながら、もちろんその目を神龍寺の方へと向ける。
阿含が言っていたとおり、阿含の攻撃参加はなかった。
『参加させるつもりもなかったのかもね』
清香はボソリと呟いた。
阿含が到着した時点で結果はほぼ分かっていたからだ。
清香は王城のミーティングが終わるのを確認すると、神龍寺の方へと足を進めた。
『雲水』
清香は比較的まともに接してくれそうな雲水に話しかけた。
一休は蒸し返されるのが関の山だし、他の先輩方は少し気まずい。
阿含なんて言うまでもない。
「清香!?…向こうは良いのか」
『良くはないんだけどね。今日の試合、完敗だよ』
「やけに潔いじゃないか」
『今は絶対に勝てないって、分かってるから』
雲水は王城側を見る。
ベンチ周辺には選手がプロテクターを外しているのが見えた。
「進は違ったようだな」
清香は苦笑をした。
『清十郎のあのカミングアウトには私が驚いたけどね。まだ不完全な作戦で神龍寺に挑むほど私達は馬鹿じゃないからさ』
「バリスタ…だったか」
清香は慌てて雲水の口を押さえる。
『い、言わないで!聞かなかったことにして!』
いや、それは無理だろうと少し笑みを浮かべる雲水。
清香はそんな雲水を見てため息をついた。
『お互い弟には苦労するね』
「そう…だな」
複雑そうな顔をする雲水。
「なあ清香」
雲水が急にトーンを落とし、清香に語りかける。
清香はその雰囲気を察して目を細めた。
「俺のやり方は間違っていると思うか」
困ったように苦笑する清香。
『間違ってはいないんじゃない?』
「ならばお前のやり方は間違っていると思うか」
清香は雲水の背中をぱしっと叩いた。
『私はそれが間違っていたとしても、最終的には正しくするけどね!』
驚いて清香を見る雲水。
『雲水も後悔しなければ、それでいいんじゃない?』
「俺は今のやり方に…後悔なんて、しない」
したくない、と言うのが本音なのだろう。
自分の能力全てを割り切って弟のために力を注ぐというのはどれほど辛いことか。
以前、清香は仙洞田監督と話をしたことがあった。
仙洞田監督も同意見だった。
”間違ってはいない”
仙洞田監督は決して正しいとは言わなかった。
それが雲水のためにならないことを知っていたからだ。
しかし清香は雲水のやり方を否定は出来なかった。
自分もそうなっていたかもしれないからだ。
自分と雲水のやり方なんて紙一重の差。
気持ちの持ち方一つだ。
阿含がこちらに近づいてきたのを視界にとらえた清香は急いで思考をやめた。
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