16th down



そういえば…

クリフォードはコップを置くと、思い出したように切り出した。

「お前、弟いるんだな」

あっと口を噤む清香。
あまり弟のことや家族のことをクリフォードに言うつもりはなかった。

『ま、まあね』

「そういや、お前の家族のこと聞いたことなかったな。お前以外は全員日本にいるのか」

清香は仕方ないというように少し肩をすくめて見せた。

『父親はここにいるよ』

「外資系企業か」

『ううん。外交官だよ』

外資系企業という言葉が13歳の口から出てくることに対して清香は笑った。

クリフォードとの話は大人びている。

この考察力ならば、おそらくあと五年もしたらカジノで大儲け出来るだろう。

「すげえじゃねえか」

『いや、外交官といっても平の方だし、主に事務仕事しかやってないらしいよ』

清香の父親はワシントンD.C.にいると聞いたクリフォード。

「ならお前はノートルダム大のミドルスクールに通わずにワシントンに行けば良かったじゃねえか」

清香は笑った。
こんなこと、サラにも話してないのにな。

『父親と知り合いの政治家が近くに住んでるらしいから、ノートルダム大のほうが安心できるんだって』

クリフォードは納得したようなしてないような微妙な顔になる。

「へえ」

『ここにいれるのも二年くらいだし、結構町だから不便じゃないしね!そりゃサンフランシスコに比べたら劣るけど…』

清香は今車が走っているフィルモアストリートを窓越しに眺めた。

「お前、ブティックに寄るか?」

近くにはセレブ御用達の高級ブティックが立ち並ぶ。
清香は首を振る。

『私はどちらかというとハリウッドに行きたかったかも』

ハリウッドはカリフォルニア州にある。
岸壁にHollywoodとかいてあるのはあまりにも有名だ。

「ハリウッドは…ダメだ」

むすっとして腕を組むクリフォード。
清香は驚いてクリフォードを見つめた。

『ハリウッド嫌いなの!?』

「…悪友がいるからな」

『クリフォードの友達!?会いたいな!』

「ダメだ!!」

ものすごい剣幕で清香を制するクリフォード。
その必死な姿に、思わず清香は笑ってしまった。

『分かった、じゃあいずれ紹介してよね?』

クリフォードはそっぽを向きながらしぶしぶと頷いた。


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