第三クォーター残り34秒。
タイムアウトをとったホワイトナイツ。
清十郎は清香をちらりと見ると、監督に話しかけた。
「監督、逆転の手はもう他にありません」
その表情。
何かを決意したその顔。
清香はすぐにそれが何かを察した。
「行かせてください。”巨大弓(バリスタ)”を」
静まり返るフィールドに清十郎の低い声が響いた。
清香はしまったという顔をして観客席を眺めた。
ここにはおそらく秋季大会に出場するほとんどの学校が見に来ている。
蛭魔のいる泥門もキッドのいる西部も。
聞こえていたに違いない。
『清十郎にこそ箝口令敷くべきだったよ…!』
今更後悔しても仕方ない。
清香は口を開こうとする。
それを遮る庄司。
「いかん!お前も分かっているだろ、まだあれはとても実戦では使えん」
清香は頷いた。
清十郎は食い下がる。
「いえ、可能です」
「お前一人が可能でどうする!」
庄司はどなる。
なおも続けようとする清十郎を清香は止めた。
『清十郎、巨大弓は連携が一番大事だよ。まだ皆、スタミナをつけて土台となる基礎練習段階に入ったばかりなんだから、まだ出来るはずないでしょ』
それを擁護する高見。
「巨大弓は王城戦術の革命だ。みんなまだとてもじゃないけど練習不足だよ」
清十郎は三人に諭され、悔しそうに拳を握り締める。
「…………わかりました」
長い沈黙のあと、清十郎は折れた。
清十郎の気持ちも分かる。
だが、まだ早い。
長い目で見ると、中途半端な新作戦をすれば、視察チームにより対策が打たれやすくなる。
そうなるよりは、秘密にする方が後々の勝率は上がる。
しかしその考えはまだ大会があるという前提で考えたもの。
秋季大会では通用しない。
それまでに必ず完成させる。
させてみせる。
その鬱憤を晴らすかのように清十郎の勢いは止まらなかった。
中央を破り、QB雲水へのサック。
ボールをこぼさないところはさすが雲水である。
中央のゾーンの最強は進清十郎。
そういう評価があちこちから聞こえてくる。
地上戦も空中戦もな。
それに付け加えられる声。
『空中戦…』
それを聞いてある人物が黙っていられるはずがない。
一瞬その人物と視線があう。
1秒程だろうか。
そんな短い時間でも清香は視線をそらせなかった。
あの目、懐かしい。
負けず嫌いはなおってないんだね。
そう近寄って声をかけたかった。
「空中戦なら負けないすよ。軽々しく最強名乗られちゃ困る」
そのプライドを胸に抱きながら、一休はそう雲水に言い放った。
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