神龍寺のラン。
走るのはRBの釜田玄奘。
神龍寺ではサンゾーと呼ばれている。
清香は少し頬を緩めた。
『玄奘…懐かしいな。よく女の子同士、話をしてたっけ』
サンゾーは男なのだが、心は女。
逆に清香がサンゾーに対して男として接するのは神龍寺に通っていた一年の間で不可能になっていた。
それを知ってか知らずか、清十郎のスピアタックルがサンゾーのプロテクターに深々と突き刺さる。
悶絶するサンゾー。
おそらく雲水は考えるだろう。
ランは清十郎に止められる。
桜庭と一休の競り合いで一休が必ず勝つならば安全策でパスで攻めるべきだ、と。
案の定、次のプレー以降はパスが続いた。
横にいた高見が雲水を見て呟く。
「雲水はいいQBだ。味方の位置全てを把握してる。視野が広い」
今まで清香は雲水に対するこのような評価をごまんと聞いてきた。
そしてこの評価の後に必ずといっていいほど、付属される言葉がある。
高見も例外ではなかった。
「その雲水が阿含の前では裏方に霞む」
何て…遠いんだ……
絞り出されるようなその声。
絶対に超えられない壁、金剛阿含。
その力を目の当たりにしたらそう考えるのも当然だ。
雲水はその比較を幼い頃からされてきた。
そして自然と分かっていた。
自分は天才の弟にかなわない。
それを分かっていて、努力を続けた。
血の滲むような特訓。
それらはすべて、阿含の才能を生かすため。
阿含の才能を認めざるをえない故の結果。
そのためならば雲水はどんな尻拭いでもしてきたし、何度も頭を下げてきた。
そんな雲水を見て清香は目を細めた。
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