小春をなだめながらフィールドに目を向けると、ちょうど王城の鉄壁のラインが崩された瞬間だった。
大田原が青天され、山伏が高見へと迫る。
高見は慌ててパスを投げた。
弧を描くような短いパス。
桜庭へのパスだ。
しかし清香の目はそれをマークする選手を向いていた。
『一休…!!』
パスカットをする一休。
攻撃が終わり、帰ってくる桜庭はとても疲れていた。
あんなにピッタリとマークされていれば肉体的にはもちろん精神的にもキツい。
ヘルメットを被りフィールドへ出て行く清十郎と変わるように、桜庭はベンチへと座った。
『お疲れ』
一言そう声をかけると驚いた顔をする桜庭。
「いつの間に来てたの!?」
『さっき』
清香は桜庭に答えながらも、一休から目線を外さない。
一休の以前との動きを比較するためでもあるが、何より先日のハグで気まずかったからだ。
桜庭もそれが分かったのか、急に気まずそうなそぶりを見せながら、フィールドを向き直った。
そこへ近づき、大声で喝を入れる虎吉。
それを見て笑いながら、清香は高見や庄司の方へ歩く。
『あの監督…遅れてすみませんでした』
庄司はため息をつくが責めようとはしない。
三年前の中学時代から知り合いであった庄司は清香の土地感覚の無さを理解していた。
清香がそれを補うことを兼ねて下見をしていたということも。
高見は頭を深々と下げる清香を見て苦笑した。
「かまわん。桜庭の様子はどうだった?」
『えと…少しバテ気味でした』
「桜庭も病み上がりですしね」
清香お疲れ、とねぎらう高見。
庄司は桜庭を眺める。
虎吉のおかげで意欲は十分。
しかしやはり疲れてはいるようだった。
「清香も分かるだろう。どうしても”最強”と当てときたくてな」
関東最強コーナーバック細川一休。
バック走で桜庭より速いというそのポテンシャルは計り知れない。
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