12th down

清香は絶望した。

どれだけ阿含に時間を費やしてしまったのだろう。

『だ、だだっ、第三クォーター…?』

携帯を取り出し、電源を入れると小春からの着信が30件入っていた。

モノレールの優先席近くに座ったので、真面目にも電源を切ってそのままにしていたのだ。

清香がフィールドに着いたとき、ハーフタイムが終わり、電光掲示板には28-0の文字。
言わずもがな王城が0得点だ。

王城の攻撃が始まるとき、清香はうなだれながらベンチへたどり着いた。


目の前には不機嫌そうな弟。

その奥には庄司。


おそらく庄司は清香がこうなることを予期していたのかもしれないので、お咎めはないかもしれないが、問題は清十郎である。


「清香」


清香の名前を呼ぶ、低い声。


恐る恐る目線を上げると、やはり目の前には40番の数字。


『あ、あの、ごめん…っていうか…本当、すみません』

土下座をしてやろうかと考えるほどだった。

それをしたとしても弟が許してくれるとは思えない。

「下見に来れなかったのなら、何かしら対処法があったはずだ」

『おっしゃる通りでございます…』

「俺ならば初めての土地に行く際、地図を持ってゆく。地図がなければ道を尋ねる」

『ハイ…』

尋ねたんだけどね!!

まさか敵の神龍寺の選手といざこざがあったとは口が裂けても言えない。

もしあの時まもりとセナを無視していたらどうなっていただろう。

遅れたとしても第二クォーターの前半には間に合ったはずだ。

『で、でもデータとか作戦とかは全部伊知郎に伝えていたし、支障は無かったよね?』

「気が気じゃなかった」

俺の、とそう言わなくても清香には理解できた。


清十郎は過保護なのだ。

そのせいでプレーに支障をきたすとは思えないが、小春の着信30件という数字は機械を使えない清十郎がなんとかして連絡をとろうとした結果だということは分かっていた。

「それに、選手のプレー一つ一つを見ながら的確にアドバイスできるのはお前だけだ」

清十郎はお世辞を言わない。
そこもヤマトと似ている部分だ。

清香はふとそう考えた。

『そう…だね』

少し尻すぼみになる言葉がヤマトのせいとは思っていない清十郎は顔に出さないが少し焦る。

「分かったのならいい」

清十郎がベンチに座り、プレーを眺め始める。


それと同時に小春が後ろから飛びついてきた。

「清香さんっ!大丈夫ですか!?私、心配で心配で!」

『携帯電源切ってたんだよね…ごめんね』

小春の頭を撫でる。
さりげないスキンシップはアメリカにいたころに身についたもの。

小春は涙目になっている。

『あの、その涙目って私を心配して?それとも必死な清十郎に詰め寄られたのが怖くて?』

恐らく着信30件は清十郎が急かしたせいだろう、と清香は考えた。

「ど、どっちもです」

恥ずかしそうに袖で目を拭う小春。

『清十郎がごめんね』

清十郎の尻拭い…いや、この場合私の尻拭いの尻拭いか。

雲水の気持ちが今なら痛いほど分かる。




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