「何か用か?」
阿含は清香をチラと見ると、視線を戻しセナに尋ねた。
セナは突然のことに体を反応させることができない。
阿含は近づいてきた清香の腕を軽く掴む。
「お前も何か用?」
清香ははいはいと適当に流しセナに話しかける。
『セナ、大丈夫?』
「あら、清香ちゃんいつの間に…?」
喋れないセナの代わりにまもりが清香に話しかけた。
清香が答えようと思って口を開くと同時に阿含がそれを遮る。
「いやーごめんごめん!大丈夫?」
清香はその手に生徒手帳が握られているのを見た。
いつの間に!
そんなことを考えても意味がない。
この男は金剛阿含なのだから。
阿含はあたかも生徒手帳が落ちていたかのように振る舞い、まもりに生徒手帳を手渡す。
まもりは喜んでセナに報告する。
やっと我に返ったセナは驚いてポケットの中を確認する。
その様子を見て清香は納得した。
『セナ、生徒手帳無くしたのって嘘でしょ?』
まもりに聞こえないようにこっそりと尋ねる。
セナはゆっくりと頷いた。
「まもり姉ちゃんには僕の正体言ってないんです」
清香の声よりもさらに小さな声でセナは答えた。
清香はへえと呟く。
確かにアイシールドをつけていたら分からないかもね。
清十郎のように筋肉で人を見分けるなら別だけど。
だから蛭魔はあんなに箝口令のようなことを要求しててきたのかな。
なんだか泥門に関する疑問に合点がいったようですっきりした清香。
「ひっ…」
突然、セナが小さく声を漏らす。
清香は聞き逃さなかった。
小さいが、悲鳴だった。
「血…?」
清香は阿含のバッグの中から覗く血の付いた衣服を見た。
清香は口を歪める。
『さっきのことは阿含に代わって謝るよ、ごめん』
極力小さな声で謝罪する清香。
まもりが近づいていたため、清香はセナの返答を聞く前にセナから離れた。
「ほら、セナもお礼言わなくちゃ」
まもりが阿含に対してお礼を言う。
阿含はいやいやと謙虚に返答する。
清香はそれを見て、まもりとセナにはらはらと手を振るとすぐに歩き始めた。
思わぬところで時間を食ってしまった。
急がなければ。
清香は少し駆け足で江ノ島方向へ向かった。
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