14th down
清香はカリフォルニア州サンフランシスコのとあるミドルスクールにいた。


目の前に広がるのはアメフトのフィールド。


その目で追うのは選手の動き。
そしてその動きから生み出される細やかなプレー。


その中でも一際目立っていたのは、4秒前半をコンスタントに出すことが出来る移動型QB。

クリフォード・D・ルイスだ。


クリフォードは自分も早く走ることが出来る。
そうであるならばRBに直接渡すよりは自分で走った方が有利。
RBはおとりに使えばいい。

しかしクリフォードは走りながら的確に狙った場所に投げることが出来る高いポテンシャルを持っている。
それはQBに絶対に必要な能力であるが、なかなかそれを持っているQBは少ない。

それを考えるだけでもクリフォードは清香の知るQBの中で群を抜いて一番だった。


クリフォードは練習が終わるとまだぶつぶつと分析している清香の元へと近づいた。


「まさかわざわざキヨカが来てくれるとはな」

『あ、クリフォード。お疲れさま!』

クリフォードはタオルで汗を拭う。
それを見るだけで周りにいたファンは色めき立つ。

『クリフォード、せっかくだからもうちょっとモーションプレーを生かしたら良いんじゃないかな。クリフォードはトリッキーなプレーが得意なんだから、モーションプレーを利用したらもっと相手を撹乱できると思うんだけど』


モーションプレー。
ボールをスナップする前に一人だけ動いても良いという制度だ。

もし囮となるRBがモーションプレーでQBの方向へと動いた場合、RBがQBからボールを受け取ると見せることが出来る。

それを見越してのことだ。


クリフォードはヒュゥと口笛を鳴らした。

「なかなかいい視点だな。俺が教えた以上になってるんじゃないのか」

『まだまだだよ。折角ここに滞在できるんだからクリフォードから色々学ぼうと思ってたんだけど』

清香はぐるりと周りを見渡す。

『ファンのみなさんに怒られるからやめとくね』

「あのなあ、そういうの関係ねえよ。お前は勉強のために来たんだろ?」

そういうと清香の背中を叩き、周りのファンに向かって言った。

「こいつはただアメフトの勉強に来てるだけだから、俺がこいつに話してても関係ねえ。手ぇ出したらただじゃすまさねーからな」

周りのファンはビクッとして頷く。

『え、えっと…ありがとう?』



次の日、郊外のモーテルに泊まった清香。

ノートルダム大からは少し遠くの州なので休日を利用して三泊くらいするつもりだった。

むくりと起き上がり、慌てて着替える清香。

ノックする音が聞こえたためだ。

清香は気づく。

『そういえば昨日、朝迎えに来てくれるって言ってたっけ…』

ドアを開けるとクリフォードがいた。

「おはよう」

『えと、おはよう』

おはようのキスしてやろうか?と迫るクリフォードを避けながら清香はモーテルを出た。

『いらない。っていうかアメリカの文化でも恋人や親しい間柄以外ではキスしないって友達が言ってたよ!?クリフォード、わざとでしょ』

クリフォードは面白くないというように鼻を鳴らした。

「親しい間柄になりゃいいだろうが」

荷物をまとめていた清香。
クリフォードの言葉を聞き逃す。

『何か言った?』

「なんでもねーよ」

清香は疑問に思いながらも荷物を背負う。

今日はどんなことを教えてもらえるのだろうかとワクワクしながらクリフォードに尋ねた。

『今から学校だよね?どんな練習するの?』

学校の方向へと行かずに町の方へと向かうクリフォードを追いながら首を傾げる清香。

「お前の学校が休みなんだからこっちも休みに決まってるだろ」

『あっ、そうか』

清香の手を取るクリフォード。

「今日はデートだ」

『え』

ニヤリと笑い、手を絡めてくるクリフォード。

「嘘だっての。今日は46rsの試合を見る」

『え!本当に!?』

まさかプロの試合が見れるなんて…

「チケットがギリギリでとれたからな」

『ありがとうクリフォード!!』

サンフランシスコのキャンドルスティックパークで開かれる試合。
相手はアルマジロズらしい。

アルマジロズと言えば有名なモーガン選手がいる。

46rsも昔ジュリー・ライスやジョー・モンタナが所属し、スーパーボウルも5回制覇したことがある伝統のあるチームだ。

清香は手を繋がれていることをすっかり忘れ、ウキウキ気分でクリフォードに着いていった。


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