2nd down
桜庭が退院した。

最後の方は経過観察のための入院だったためか、すぐに練習に参加することが出来た。


「清香、ここのフォーメーションなんだけど」


桜庭は入院中に清香が渡していた資料を良く読み込んでいたのだろう。
積極的に清香に質問をしていた。


『すっかり人が変わったみたいだね』

清香が質問に答えながら話すと、桜庭は笑って応えた。

「そうだな。虎吉に気づかされたよ」

『そっか』


質問を終えると、桜庭は水分補給のために小春の方へ向かった。


その背を見送る清香。

すぐに視線を清十郎の方へと向けた。


清十郎は巨大弓の練習をしていた。
しかし、まだ実戦で使うにはほど遠いもので。

高見が清香の近くへ来る。


「進は何かに取り憑かれたように必死に練習しているね」

『そうだね…伊知郎、まだ巨大弓を実戦には使えないと思う』

高見は眼鏡を押し上げながら頷いた。

「神龍寺との戦い…恐らく監督も俺たちと同じ考えだよ」

『神龍寺には勝てない、伊知郎はそう思ってるの?』

清香は清十郎を見つめながら呟いた。


もちろん清香にも分かっていた。


神龍寺の練習量も凄いが、なにより向こうには金剛阿含がいる。

阿含が第一クォーターから出るとはもちろん考えられないが、どこから加わるかなんて関係ない。

阿含が入った後は決まって相手は戦意を喪失するし、点数は湯水のように追加される。


『今は確かに勝てない』


高見は清香を見た。

『でもね、クリスマスボウル……これに出場するには絶対に神龍寺を倒さなきゃいけない』

「だから、春季での神龍寺を利用してレベルアップするんだろう」

清香は何かを企んでいるような笑みで高見を見た。

『そのとおり』


そうだ。
どうせ負けるのなら、阿含と雲水を利用してやるのだ。



「清香は太陽泥門戦を見るのかい?」

『試合の前にあるんでしょ?本当はメンタルコーチとしてずっと付き添った方がいいんだけど』

「分かってる。アイシールド21だろ?」


清香は高見から視線を外し、練習している清十郎を見た。


清十郎のサポートに全力をかけると決めた。

そのためには妥協しない。


西部戦では自分の目で見なかったために後悔した。

だからこそ、どんなときでも自分の目で見ると決めた。





清十郎が遠目で清香と高見を見ていることを清香は知ることがなかった。


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