次の日、清香は昨晩のことを考えながら城下町病院へ向かっていた。
年下…
何故その考えが浮かばなかったのだろう。
思い込みの激しさというものの恐ろしさを身に染みて感じた。
それならばもう一度強豪校のリストを作成すれば、見つかるのだろうか。
去年の全国区の選手はほぼリストアップしてあるので、今年入学してきた選手のみを考えればいい。
そう考えれば少し気が楽になった。
中庭には桜庭がすでにいた。
『ごめん、待った?』
「いや、今来たところだ」
苦笑する桜庭の隣に腰を下ろす清香。
桜庭は座りやすいように少し席をずれた。
今だけは…
今だけは、大和猛のことを考えてはいけない。
『春人が戻ってきたときのために攻撃のフォーメーションの配置を変えたいの』
「それは、どうして?」
不安そうな顔になる桜庭。
自分が攻撃から抜かされるなどと考えたのだろうか、少し眉間にしわが寄っている。
『清十郎が攻撃に加わるの』
桜庭は驚いたようだった。
そしてすぐに微笑んだ。
「なるほどね。それで俺は用無しってこと?」
『春人!!』
冗談だと分かっていても言ってはいけないことだ。
清香は桜庭をにらんだ。
「嘘だよ。でも、そう考えても仕方ないだろ?」
桜庭の目は清香の目を見ていた。
そして清香の目の奥の、かつて清香が清十郎に対して感じていた劣等感を見ていた。
『春人も逃げたんでしょ?』
「…なんのこと?」
『劣等感から、逃げたんでしょ?』
桜庭はベンチに寄りかかり空を見上げた。
清香と桜庭では逃げ場所が違うだけだ。
清香はアメリカへ逃げた。
桜庭はその場所がアイドルというだけだ。
清香は笑った。
こうしてみると私たち二人は似たもの同士なのかもね。
清香は戻ってきた。
『春人も、戻ってきて』
清香は用意していた新たなフォーメーション表とそれに応じた作戦の変更点をまとめたメモを桜庭に手渡す。
「清香…俺」
『いいの。春人の気持ちが決まったら、連絡して?別にこの病院遠くないんだし』
桜庭は少し俯く。
「…ごめん」
いいんだよ。
そう返すと清香はロビーの方へと向かっていった。
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