清香が心配していたことなどお構いなしに大和はめきめきと力をつけてきた。
あっという間に同じ体格の他の選手は大和にかなわなくなる。
『大和…凄いな』
「タケルはすっかりこのチームのエースだな」
清香の呟きを聞き、ジョンが話しかけてくる。
『本当だね』
ジョンはしばらく黙り込むと、意を決したように清香に話しかける。
「キヨカ、タケルのことだ」
『…どうしたのあらたまって』
「学校生活に慣れたから、お前を教育係から外したのは俺だ」
清香は黙って頷く。
「お前が教育係から外れてから、やけにタケルの怪我が増えたと思わないか?」
清香はハッとする。
何故言われるまで気がつかなかったのだろう。
ジョンを見つめる清香の目に戸惑いが浮かんだ。
「キヨカ…お願いできるか」
ジョンの言わんとしていることを理解した清香。
軽く頷くと練習場の反対の校舎へ向かって駆ける。
クリフォードとぶつかった曲がり角の先は図書館へと続くショートカット。
その先は医務室だ。
『先生!!』
「あら、キヨカじゃないの。テーピング?」
清香は息を整えながら首を振る。
『大和…大和のことを、聞きたくて…!』
「ヤマト…くん?ああ、あのアメフト留学生の子かしら。あの子がどうしたの」
息が落ち着き、改めて先生に向き直る。
『最近大和は医務室のお世話になっていませんか』
「…たしかに最近増えてるわね。でもそれはアメフトをやってる以上仕方ないことじゃないの?」
清香は腕にいつも抱えているバインダーを取り出し、ここ数日の部活での怪我人リストを先生に見せる。
眉をひそめる先生。
「待って、ヤマトくんの名前が見当たらないわ」
清香は頷いた。
『こちらで怪我人は把握しています。しかし、ここ数日大和は部活では怪我をしていない』
「でもここで治療を受ける際、彼は部活での怪我って言っていたわ。報告ミスじゃないの?」
清香の頭に一つの考えが浮かぶ。
本当はこの結論にたどり着きたくはなかった。
しかし、すべての証拠がこの事実の信憑性を高める。
『大和は、誰かに暴行されている』
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