清香は生唾を飲み込んだ。
「本当のこと言ってくれ。俺がいたら…もっと楽に勝てたのか?」
桜庭の言葉に眉を片方ぴくりと動かす清十郎。
ちらと清香のほうを見た後、淡々と答えた。
「いや、何も変わらなかったろうな」
そういうと清十郎は外で待つと清香に呟き、廊下を引き返していった。
「……そうか」
清香はため息をついた。
こんなこと春人は言いたくなかったろうし、春人も言われたくなかっただろう。
清香は開ききった病室のドアを軽く叩いた。
「……清香?」
『うん、ちょっと話があってね』
桜庭は自嘲気味に笑った。
「俺を笑いに来たのか?」
『そんなわけないでしょ』
「おかしいよな、ヒーローヒーローと崇められる人物が実は凡人でなんの取り柄もないこんな男なんだからな」
半ば自暴自棄になったように話し出す桜庭。
『春人』
それを制するために清香は桜庭の名前を呼んだ。
「進は何でもはっきり言ってくれた。清香もそうなんだろう、何を俺に言いに来た?」
『春人、提案があるの。攻撃のことなんだけど…』
バタバタという音が廊下から聞こえる。
「さっくらばくーーんっ!」
このあいだのリポーターが病室へ飛び込んでくる。
ディレクターとカメラマン、ジャリプロの社長も一緒だ。
「エース桜庭くん不在の王城は苦戦したみたいですね!チームリーダーとしてみんなに喝を…」
清香は露骨に嫌な顔をした。
なんというか、空気が読めていないのではないだろうか。
この雰囲気をみて察してほしい。
「やかましぃわ!!!」
『え!?』
突然少年が奥のベッドから現れ、叫びながらリポーターたちに次々に手近にあるものを投げ始める。
清香は当たらないようにベッドの横にしゃがみこんだ。
リポーター達は逃げてゆく。
騒ぎが収まった後、清香はゆっくりと立ち上がった。
『えっと…ごめんね、帰った方がいいかな』
その少年は清香を見ると、ええねんと呟くように言った。
「ねえちゃんは静かにしとるようやからええねんけど、さっきのはやかましすぎたわ」
清香と桜庭は苦笑いをした。
さすがアイドルと言ったところか。
「病院は霊だらけなんや。やかましすぎたら霊が出てくんねんて」
少年は恐ろしげな表情を見せる。
「例えばそこのドアの陰とか…」
清香は少年の指差す方向を見た。
ドアがその言葉に反応するようにギイイと音を立てて内側に開く。
そこには…
「明るく…登場……」
泥門のランニングバックとレシーバーがいた。
prev│next
(15/21)
bkm
back(表紙へ戻ります)
top
※章内ページ一覧へは
ブラウザバックでお戻りください