14th down
桜庭のお見舞いの日、清香は王城の皆とバスに乗って病院へ向かっていた。

誰もバスの中で話そうとはしなかった。

先日の試合のことが頭にまだ残っているのだろう。

試合に勝って勝負に負けたとはよく言ったものだ。


バスが病院前に到着し、清香たちはバスから降りた。

ここはバス専用の特別駐車場なので人は少ない。

しかし、外来患者用の駐車場は違った。


『あれ…なに?』


人が集まっている。
それも少しではない。
駐車場が埋め尽くされるほどに、だ。


王城のメンバーは裏の特別外来用入口から入る。

花束を持っている小春に話しかける清香。

『あれって、春人のファン…だよね』

「おそらく…」

小春は苦笑いをしている。

清香は笑いすらおきなかった。



「よー桜庭、生きてるか!」

病室に着き、大田原さんがバァンとドアを壊す勢いで突入した。

後ろからぞろぞろと入る王城メンバー。

清香は小春の後ろでその様子を眺めていた。


高見が心配そうに桜庭に首の調子を尋ねる。

そのときだった。


「桜庭くんっ!!!!!」


先ほどのファンが桜庭の病室になだれこんでくる。

咄嗟に小春と清十郎の間に身を滑り込ませる清香。

あっという間に病室は女子高生でいっぱいになった。


写真撮影が続き、一方では王城メンバーが報告をするという状況のなか、清香は一歩病室の外に出ていた。


声だけは中から聞こえてくる。

「なんとか優勝したよ。最後1点差だ」

高見の声だ。

「お前が悪いんだ!お前がいれば100点差で勝ってたんだ!」

大田原の声が続く。

清香は目を見開いた。

桜庭の顔が見えないので、桜庭がなにを考えているのかは分からない。

「やっぱりね!だって桜庭くんエースだもん!」

女子高生の声。


清香は顔を伏せた。


今の桜庭には、この言葉は追い討ちでしかない。
エースエースと称えられ、知名度だけがどんどん上がっていった結果だ。


しばらくこのような会話が続いていたが、清香の耳には入ってこなかった。


「じゃまたな」

「お花置いときますね」


清香ははっとした。

急いで病室を覗くとそこには数人の王城メンバーしかいなかった。

ファンは全員帰ってしまったようだ。


最後に出てきた清十郎と目が合う。


「清香、何か桜庭に話したいことがあったのではないのか」


清香はゆっくりと頷いた。

清十郎は頷き返す。


清十郎が去ろうとしたそのときだった。


「進」


桜庭が清十郎を呼び止めた。


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