桜庭のお見舞いの日、清香は王城の皆とバスに乗って病院へ向かっていた。
誰もバスの中で話そうとはしなかった。
先日の試合のことが頭にまだ残っているのだろう。
試合に勝って勝負に負けたとはよく言ったものだ。
バスが病院前に到着し、清香たちはバスから降りた。
ここはバス専用の特別駐車場なので人は少ない。
しかし、外来患者用の駐車場は違った。
『あれ…なに?』
人が集まっている。
それも少しではない。
駐車場が埋め尽くされるほどに、だ。
王城のメンバーは裏の特別外来用入口から入る。
花束を持っている小春に話しかける清香。
『あれって、春人のファン…だよね』
「おそらく…」
小春は苦笑いをしている。
清香は笑いすらおきなかった。
「よー桜庭、生きてるか!」
病室に着き、大田原さんがバァンとドアを壊す勢いで突入した。
後ろからぞろぞろと入る王城メンバー。
清香は小春の後ろでその様子を眺めていた。
高見が心配そうに桜庭に首の調子を尋ねる。
そのときだった。
「桜庭くんっ!!!!!」
先ほどのファンが桜庭の病室になだれこんでくる。
咄嗟に小春と清十郎の間に身を滑り込ませる清香。
あっという間に病室は女子高生でいっぱいになった。
写真撮影が続き、一方では王城メンバーが報告をするという状況のなか、清香は一歩病室の外に出ていた。
声だけは中から聞こえてくる。
「なんとか優勝したよ。最後1点差だ」
高見の声だ。
「お前が悪いんだ!お前がいれば100点差で勝ってたんだ!」
大田原の声が続く。
清香は目を見開いた。
桜庭の顔が見えないので、桜庭がなにを考えているのかは分からない。
「やっぱりね!だって桜庭くんエースだもん!」
女子高生の声。
清香は顔を伏せた。
今の桜庭には、この言葉は追い討ちでしかない。
エースエースと称えられ、知名度だけがどんどん上がっていった結果だ。
しばらくこのような会話が続いていたが、清香の耳には入ってこなかった。
「じゃまたな」
「お花置いときますね」
清香ははっとした。
急いで病室を覗くとそこには数人の王城メンバーしかいなかった。
ファンは全員帰ってしまったようだ。
最後に出てきた清十郎と目が合う。
「清香、何か桜庭に話したいことがあったのではないのか」
清香はゆっくりと頷いた。
清十郎は頷き返す。
清十郎が去ろうとしたそのときだった。
「進」
桜庭が清十郎を呼び止めた。
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