次の日、清香は早速サラと共にアメフトのフィールドへと向かった。
そこにはMr.ドンもいた。
『あれ、Mr.ドンは卒業したんじゃ…』
「この数ヶ月は臨時でコーチに来ることになってるらしいわ」
なるほど、と納得する清香。
フィールドに下りるとゆっくりとMr.ドンが近寄ってきた。
「昨日はクリフォードから様々なことを学んだようだな」
『ええ、自分のやれることを教えてくれました。私も色々考えました』
Mr.ドンはしっかりと頷いた。
そして、散らばっていた選手達を大声で集める。
「新たなチームメイトを紹介する。キヨカだ。日本人で、ノートルダムには留学で来ている」
Mr.ドンは清香にも一言促す。
『今日からこのチームで一緒に頑張ります。私はメンタルコーチとしてチームに加わります』
カタコトで必死に考えていた内容を話す。
一対一ならまだしも、このチームの選手は100人に近いのだ。
話せただけでも良くやったと誉めてやりたいくらいだった。
「ということだ。もうすぐアメフト留学生もやってくる。新たなメンバーが加わったとしてもやることは変わらない」
そう言い終えるとMr.ドンは、練習開始だ!!と叫び、選手はそれぞれのポジション別に散っていった。
「メンタルコーチと言っていたな。そうか、クリフォードはそのようにお前を見たか」
『実は…幼いときからずっと一緒にいた弟が、とても運動が好きだったんです。その影響か私もかなり活発に過ごしてきて』
清香は一旦口を閉ざした。
『筋肉がなんとなーくどんな付き方とか分かるようになってしまって…』
「ほう。それはさらに興味深いな。ならばこのMr.ドンのポジションを当ててみろ」
清香はごくりと生唾を飲んだ。
そんなテストみたいなことをいきなり言われるなんて…ついてない。
ポジションは頭に叩き込んでるけど…。
『……上半身の筋肉が鍛えられてますね。しかも両腕はほぼ均等』
つまりQBではない。
QBならば腕の筋肉が多少偏るものだ。
清香は考えた。
大体Mr.ドンの体格的にQBは有り得ない。
『上半身だけじゃない、下半身もとても鍛えられている。踏ん張る力がとても強いんですね』
「ふむ」
『ライン…ですか』
Mr.ドンは何も言わずに清香の背中をバンと叩いた。
「認めてやろうじゃあないか」
Mr.ドンの言葉に少し心が落ち着いた。
後は選手達と仲良くなるだけだ。
…そんな心配は無用だった。
いつのまに広がったのか、数日の間に清香の名前も性格も選手達に知れ渡っていた。
あまり話すことのないチアの人たちにまで。
犯人なんて決まっている。
いや、犯人なんて言い方は失礼かな。
清香は自分の横を歩いている同室をちらりと見た。
サラが清香のことを広めた張本人であることは確かだった。
そのおかげで選手達からもフレンドリーに接せられ、チアの人たちからの応援も多い。
終いには通りすがりの生徒からも名前を覚えられる始末。
ありがたい…ありがたいんだけどおお!!
清香は複雑な心境で話しかけてくる人々すべてに笑顔を送っていた。
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