6th down
清香はMr.ドンを見上げた。

クリフォードになにか言っていることは分かったのだが、言葉が早すぎて聞き取れなかったのだ。

「…んん?よく見たらアジアンじゃないか。お前がこんな小娘に興味を抱くとはな」

Mr.ドンは言った。

清香は顔をしかめた。

ちゃんと聞き取れなかったが、クリフォードを馬鹿にしているということは分かった。

「バカ言ってんじゃねぇよ……まてよ、案外当たっているのかもな」

早口のクリフォード。

清香に話しかけていたときはわざと分かりやすい単語を選んでいたのだろう。

ネイティブの発音は清香にはまだ聞き取るには難しすぎた。

「コイツな、アメフトに興味持ってるんだよ」

クイと指で清香を指し示すクリフォード。

清香はかろうじてアメフトという単語を聞き取れていた。


「ほう…アジアンにしては珍しい」


Mr.ドンはそう言うと少し悩んで再度口を開いた。


「“日本語なら分かるか?”」


日本語だった。
清香は驚いた。

無意識に自国の言葉に対して頷いていた。


「“アメフトに興味を持っているのならOBとして考えてやらんこともない。なによりクリフォードが気に入る女だ、なにか特別なことでもあるのだろうな”」

清香は唖然とした。


確かにアメフトに興味は持っている、持っているが別に部活をやるとかそういう次元ではない。
ただ、純粋に一人の観客として楽しみたかったのだ。


しかし清香の口からは言葉は出てこなかった。

「いやなら断れよキヨカ」

「“キヨカというのか、どうするんだ”」


二人は清香を見る。

喉がカラカラになっていた。
何も言葉が出ない。

そのときだった。


「クリフォード様とMr.ドン!この子はまだアメリカに来たばかりで、アメフトも今日知ったんです!」

今までずっと黙っていたサラが口を開いた。

黙っていたのは失神していたからではなく、単に怒りが蓄積されていただけのようだ。

「おお、サラか。そうかお前がこのアジアンと同室だったのだな」

「ええ。今日この子を誘ったのもアメフト部に入らせるためとかじゃなくて、単にアメリカの文化を知って欲しかっただけなの」


クリフォードとMr.ドンは黙り込む。


「そうか、そりゃ悪いことをしたな。すまないなキヨカ」


クリフォードが申し訳なさそうに清香にもわかる言葉で謝罪したときだった。

清香の中で何かが弾けたようだった。

喉から自然と言葉が出てくる。


『私、アメフト部に入りたい!入らせてください』




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