サラは得意げに話し出す。
「ほら、あそこにいる選手がジョンよ!」
敵味方問わず、有名な選手を私に教えてくれる。
「今ボールを投げたのがクォーターバック(QB)。相手のQBはクリフォード様ね!」
『クリフォード…様??え、クリフォードってそんなに有名なの?』
サラは驚いたように清香を見つめる。
「クリフォード様を呼び捨てになんてできないわよ!…あなた、もしかしてクリフォード様と知り合いなの!?」
この剣幕…キスをされたと言おうものなら、どうなるか分からない。
清香はち、ちょっとね〜…と明後日の方向を向きながらごまかす。
「ちょっと気になるけど…まあいいわ。あ!あそこに見に来てるのがこの間まで我らがノートルダム大付属でキャプテンを務めていたMr.ドンよ!」
清香はサラの指さす方向を見る。
そこにはとても大きな体の選手がいた。
「Mr.ドンは飛び級でもうこの学校を卒業しちゃったんだけどね。お父さんは官僚っていうエリートよ」
『と、飛び級!?』
清香はベンチから身を乗り出すようにしてMr.ドンを見る。
アメリカは日本とは違う…すごいなあ。
清香が感心しながらサンドイッチを頬張っていると、練習を休憩するために選手がぞろぞろと戻ってきた。
少し離れたベンチに腰を下ろすクリフォードの姿も見える。
清香の隣にいるサラは目を輝かせてそちらを見ている。
清香は見つからないようにサラの陰に隠れてもくもくと食べ続けた。
しかし清香の苦労も実らず…
「…よおキヨカ、お前何隠れてんだ?」
クリフォードが遠くから笑うように話しかけてきた。
ドキリとした清香だったが、一番驚いていたのはサラである。
「クリフォード様が……あなたを呼び捨てに…!」
今にも失神しそうなサラに慌てて説明をする。
ぶつかったこと、運んでもらったこと。
キスをされたことは伏せたが…。
「キヨカの横にいるのは…ノートルダムのチアだろ?パフォーマンス、なかなか良かった」
サラは今度こそ夢見心地で失神しかける。
『く、クリフォード…って、凄い選手だったんだね!あの、ごめん私全く知らなくて』
クリフォードはハッと鼻を鳴らし、清香に応えた。
「気にするな。逆にその反応が新鮮で楽しかった。普通の女じゃそうなっちまうからな」
明らかにサラのことを指している。
確かにこの反応しかなかったら私の応答は異常に見えただろうな、と清香は考えた。
話をしている最中だった。
清香とサラの座っているベンチに急に影が差した。
空は雲一つない晴天。
清香は首を傾げた。
「クリフォ〜ド。お前が女と話すなんて珍しいじゃあないか」
突然空から降ってくる声に、清香は慌てて後ろを振り向く。
その声にサラも我に返った。
『え…?』
「あ、あなたは…」
二人が口を開く前にクリフォードが話し出した。
「Mr.ドン、別に俺が誰と話そうとあんたにゃ知ったことじゃないだろう」
Mr.ドンは口を歪めて笑った。
「そうだな、だがしかし気になってしまったのだ。お前のような類を見ない選手が興味を持つ女をな」
クリフォードは眉間にしわを寄せる。
清香は何も言えなかった。
ただ胸中には一つの感情があった。
怖い。
怖い怖い怖い。
こちらはベンチに座っていて相手は立っている。
この威圧感と圧倒的存在感はそれだけの差では無かった。
もっと根本的な…何かが、このMr.ドンとは違う。
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