清香は試合が終わり、ちらりと西部陣営を見る。
キッドも同じことを考えていたのか、目があってしまった。
『次は負けない』
口でそう言いながら清香はこぶしをキッドへと突き出した。
テンガロンハットをかぶりなおすキッドは笑うようにため息をつくと、背を向けて右手をあげた。
これは、のぞむところだ…ととってもいいのだろうか。
もしくは、別に意図するところがあるのか。
清香には分からなかった。
バスに乗り込み始める選手を追い、清香はグラウンドを後にする。
バスに乗り込むと、高見の隣に腰を下ろした。
「明日、桜庭の病院へお見舞いに行くよ」
『城下町病院だよね、分かった』
二人は黙り込む。
今日の結果ははっきりいって最悪だった。
いくら県大会を優勝することが出来たとは言え、これでは負けたも同然。
そのことはバスに乗っている全員が思っていることだった。
「バリスタ」
高見がふと呟いた言葉。
清香は驚いて高見をみた。
「昨夜、考えていた。進を攻撃に加えるとしたら、きっとバリスタのようだ、とね」
『バリスタって…なんだっけ』
清香の辞書にその言葉はなかった。
「古代の兵器さ。巨大な矢を敵に打ち込むんだ。素早さと力強さを併せ持っている」
清香は頭の中に思い描いた。
「主に城門を破るときなどに使われていたそうだ」
眼鏡をクイとあげて笑う高見。
『なんとなく、分かった。清十郎を矢に見立てて相手の守備…つまり城門を破るってことだね?それを放つのが他の攻撃陣』
「ああ。分かっているとおり、進には《敵の守備を破って》もらうんだ。もちろん臨機応変に対処するけど、進にボールを託すわけじゃない」
清香ははっとした。
そうだ。
清十郎なら、それができる。
リードブロッカーとしては理想的な体格なのだ。
「清香にやってほしいのは、それを可能にするチーム力をつけること」
清香は返事の代わりに前を向き、大きく頷いた。
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