熱中症患者のお相手
清香は泥門高校に偵察に来ていた。

バレたら清十郎にとめられるので部活には内緒だ。

『それにしても暑い…』

近くに日陰がないので日向で偵察する。

夏休みになりつつあるので気温はとても高い。

『今日くもりって言ってたのに…』

毎朝ひいきにしているお天気お姉さんを恨みながら清香はぼそりと呟いた。


水分補給をしようと思い校舎の方へ向かう。

しかし方向が違ったようで、知らない場所に足を踏み入れる清香。


ここ、どこ?


そんなことを考える余裕すらなかった。

清香の意識は朦朧としていた。

ふっと何かが途切れたように清香は壁に寄りかかる。

そこで初めて清香は気づいた。

『やば…熱中症…かも』

くたりと壁にもたれる清香。

自分で動く力もなかった。

ゆっくりとまぶたが下りてきたそのときだった。


「…!テメェ何してやがる!!」

焦った声が清香の耳に届いた。




ふと清香が目を開けるとそこには心配そうな顔をした泥門メンバー。


そうだ、私熱中症で…

「倒れたんだよ」


清香の思考を補うように蛭魔が付け加えた。

「手間かけさせやがって。偵察に来たってのに自分が観察されてりゃ世話ねぇな」

蛭魔のいうとおりだった。

清香は悔しいやら恥ずかしいやらで顔を真っ赤にした。

「ほら糞チビ共!コイツは起き上がったんだから練習に戻りやがれ!」

バラララとマシンガンを撃ち出しながら叫ぶ蛭魔。

あっという間に部室には清香と蛭魔しかいなくなった。


「マネージャーなら自分の健康管理もしやがれ」

『わ、分かってる。でも今日はくもりだって天気予報で…いった!!』

ゴツッとマシンガンの先端で清香の頭を殴りつける蛭魔。

「バカ。テメェが倒れてからじゃおせえんだよ」

なにも言い返せなくなる清香。

それを見て蛭魔はため息をつく。

そしてすぐに表情を変えた。

「で、ご立派な進清十郎のお姉さまは偵察ですかな?」

『そのつもり…だったけど、ダメだよね』

「ったりめーだ。そんなふらふらで偵察されてたまるか。しかもテメェはもう顔も割れてんだ。今日は大人しくしとけ」

えーっと文句を言い始める清香。

「それとも…大人しくさせてもらいたいのか?」

にやりと笑って清香の近くに寄る蛭魔。

蛭魔の顔が清香の目と鼻の先にある。

清香は慌てた。

『ちょちょちょっと!!な、なにしてるの!?』

蛭魔はしばらく清香の顔をじっと眺めた後、面白くなさそうに話し始める。

「アメリカで暮らしていたにしては経験が浅いんじゃねーか?」

『け、経験って…その…キス、とか?』

「ああ」
他にも色々あるだろうが。

そう続けようとしたが、その言葉は顔を真っ赤にして蛭魔を押しのける清香によって止められた。

『わ、私はね!好きな人としかそういうことやりたくないっていうか!!』

「俺がお前のことを好きと言ってもか」


フリーズする清香。

口をパクパクする清香をみて、鯉みたいだな…と考える余裕のある蛭魔。

それに対称的な清香。


蛭魔は再度ため息をつくと清香の側から離れる。

「嘘だ」


蛭魔が踵を返した後に呟いた言葉を聞くと、清香は怒り出す。

それを軽くあしらいながら蛭魔は少し眉尻を下げた。


いつか本当のことを言える日がくるのだろうか。

こいつがその気になるまで、待つくらいの余裕は持っている。

それにはこいつの双子の弟にも認められなければならない。

面倒だが、それくらいの価値は十分にある。


蛭魔は不敵に笑ったのだった。


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