ここ、テストに出ます(前編)


『清十郎って、付き合ってる子いないよね?』

「うむ」

『じゃあデートしたことないよね?』

「うむ」

『じゃあデートしよっか』

「!?」


これが始まりだった。




恋人にしては遠く友達としては近すぎる、微妙な距離を保つ二人組がネズミーランドのゲート前に立っていた。

二人の名前は清香と清十郎。
彼らは双子である。

『さあ、清十郎!模擬デートだよ!』

「その…模擬デートとはなんだ?」

『私も清十郎もデートしたことないでしょ?春人に聞いたんだ、デートといえば遊園地!ってね』

双子の片割れである清十郎は微妙な表情で血を分けた姉を見つめた。

「それで、今日は俺とデートだと」

『うん、初心者同士仲良くやろうね!』

腑に落ちないところがあるが、清香が一度決めたら考えを変えないことは自分がよく知っている。

自分にそう言い聞かせながら清十郎は駆け足でゲートをくぐる清香を追いかけた。


チケットは(清十郎が機械を壊すので)清香が買う。
入場の列には(清香が迷うので)清十郎が率先して並ぶ。


やっとのことで中に入る。

『うわー!広い…』

「迷わないようにしろ」

『清十郎こそ壊したら駄目だよ?券売機はまだしもジェットコースターなんて壊したら弁償できないからね』

清十郎は清香の言葉に口を閉ざす。
もちろん本人は壊しているつもりなどないのだ。

清香は入り口で貰った地図を広げる。

二人でのぞき込む様子は周りから見るとカップルのように見える。

「初めてだから分からない」

『想像はつくけど、あまりこういうところ家族で来たことなかったもんね』

清十郎が子供らしくなかったからね、と清香が付け加えると、清十郎は軽く反発をする。

「清香も子供らしくはなかった」

『なに言ってんの!清十郎よりは子供です!』

話の軸がずれてしまった二人。

折角だから楽しもうと片っ端から乗り物に乗ることに決めた。



『まずはこれ!メリーゴーランド!』

「馬に乗るのか」

『馬車もあるらしいけどね』

これならば馬自体は機械でないから大丈夫だろう。

清香はそう思い、乗り込んだ。

周りには子供達だらけ。

『どれに乗ろっかなー』

「…俺はこれにする」

適当に清十郎が選んだのはとても立派な白馬。

ここの馬は様々な種類があるようで、そのなかでも白馬はかなり少ない方だった。

そのため子供達も狙っていたようで、白馬に跨がる清十郎を見るや否や文句を言って別の馬に乗り換えている。

清香はそれなら、と清十郎の隣の栗毛の馬に跨がった。


リズミカルな音楽と共に馬が動き出す。


ここでカップルなら
「きゃー○○くん怖いー」
「俺がついていてやるぜ」
なんていう会話が繰り広げられるんだろうなー。


と、清香はどこから仕入れたのか分からない知識を頭の中で総動員していた。

ふと横に無表情で座っている清十郎を見た。

白馬に跨がる清十郎。
まるで…

『騎士って感じだよね』

「白馬の騎士か。ホワイトナイツだな」

『あ、そうだね!』

清香は清十郎の言葉に対して微笑んだ。


今現在、清十郎の横にいるのは私だけど、いずれ別の女の子が清十郎の隣を歩くのだろうか。


もちろんこんなことを清香が考えていることなど清十郎は知らない。

清香は複雑な気持ちになって真っ正面を向いた。

上下する視界。
はしゃぐ子供達。


今現在、清香の横にいるのは俺だが、いずれ別の男が清香の隣を歩くのだろうか。


もちろん清十郎がそんなことを考えていることなど清香は知らない。



音楽が止み、皆はそれぞれ馬から下りる。

メリーゴーランドから出て背伸びをし、清香は地図を広げた。

清十郎は相変わらず無表情のままだ。

『楽しかった?』

「ああ」

清十郎は正直に言う。
そのことを知っていた清香は笑った。

『次はこれかな、コーヒーカップ』

「コーヒーカップ…?」

『カップに入ってくるくる回るんだよ』

微妙な表情をする清十郎。
おそらく違うものを想像しているのだろう。


清十郎が地図を見ながら歩き、清香はそれを追う。

色とりどりの大きなコーヒーカップが見えてきた。

列に並んでいるのは子供連れとカップル。

幸運なことに一度待つだけですぐに乗り込むことが出来た。

清十郎も動くコーヒーカップを見て納得したようだった。


乗り込むと、係員の人が入り口の小さな扉を閉める。

そしてまたもやリズミカルな音楽と共にコーヒーカップがゆっくりと動き出した。

『おおお』

「動いたな」

真ん中にある円盤を持って体を支える。

『あれ、思ったより回らないね』

そう思い周りを見渡す。

そこには清香達のカップなど回っていないというのと等しいくらい、ものすごい勢いで回転しているカップの数々。

『え!?なんで私達のだけ回らないの!?』

清十郎もその違いに気づいたようで、清香同様に辺りを見渡した。

「見るだけで酔いそうだ」

『それもそうだね』

酔うという清十郎の一言で回す気を無くした清香。

音楽が止むまで緩やかすぎる回転を二人で楽しんだのだった。


扉のロックを外した係員に回し方を尋ねると、どうやら真ん中の円盤を回すらしい。

清香は苦笑いで係員にお礼を言った。
無表情の清十郎を見た係員は清十郎が怒っていると思ったらしく、少し顔がひきつった。

「もしかして…故障してましたか!?」

『あ、いえいえ。ただ回し方が分からなかっただけですよ』

清十郎の顔を伺う係員。
それを気づいた清香。

『あ!こっちの人別に怒ってませんよ?』

「ほ、本当ですか」

安心する係員。

清香は係員に気づかれないように清十郎を軽く小突いた。

小突かれた清十郎は少し顔をしかめると、怒っていませんと小さく声にだした。


コーヒーカップから出て、行き先を決めようとする清香。

そのお腹が鳴る。


『あ』

「食事は大事だ」


清香の腹の虫を聞くや否や清十郎はレストランがある方向へと歩き出した。

清香は恥ずかしいやら有り難いやらで顔を赤くさせながら清十郎を追いかけた。




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