僕、その童話嫌いだよ。
友達である兎丸比乃が呟いた。
今日は体力測定の日。
この学校ではグラウンドにそれぞれ専用の測定コーナーが設けられており、自分たちで好きな測定を選んでよいこととなっていた。
一緒に測定してまわろうね、と約束していた○○は兎丸と一緒に列に並んでいた。
「比乃くんは足が速いね。羨ましいな、本当にウサギみたい」
○○が例に出したのは、『ウサギとカメ』のウサギ。
足がとても速いウサギと、とても遅いカメの話。
○○がその話をし始めてしばらくして、兎丸は顔をしかめる。
「僕、その童話嫌いだよ」
○○は兎丸の拒絶的な言葉に驚く。
「その童話、ウサギが悪者じゃん。僕の名前に入ってる動物が嫌われるような話聞きたくないよ」
ちょうど列が進み、自分の番を迎えた兎丸は○○を振り返らずにスタートした。
取り残された○○。
急いで走り始める。
50mを走り終えた兎丸は息を切らすことなく、○○を見た。
「僕は確かに走るのが好きなんだ。でもこの前の野球部の合宿で、速く走るのが全てじゃないって気づいたんだ」
息を切らす○○。
そんな○○を見て兎丸は微笑んだ。
「だから○○も速く走れるようになりたいなんて思わないで?速く走れなくてもそれぞれの良さがあるんだよ」
息を整える○○。
そして微笑み返す。
「私はウサギとカメのウサギが悪いなんて思ってないよ」
きょとんとする兎丸。
○○は続けた。
「この童話の続きは分かんないけど、きっとこのウサギも比乃くんみたいに気づいたんだと思うよ。速く走れることが一番大切っていうわけじゃないって」
兎丸は目を細める。
「多分このウサギは比乃くんのように、ちゃんと大切なことに気づいてる。私はそう信じてるよ」
ウサギにとってのカメとのレースは、比乃くんにとっての皆との合宿なんだと思うんだ。
「やっぱり○○は凄いな。僕そんなことこれっぽっちも考えなかったよ」
「だから、ウサギが嫌いだなんて言わないで。比乃くんは自分の欠点も分かってるんだから」
遠くから先生の集合の声がかかる。
(ウサギとカメ)
兎丸はにっこり笑うと、○○の手を取って駆け出した。
「もし速く走りたいならいつでも僕に言ってよね!僕はいつでも○○と一緒にいるんだから!!」
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