早速練習が始まる。
どうやら毎年恒例の校内競馬をやるようだ。
マネージャーは裏でドリンクやタオルの準備をしなければいけない。
私は辺りを見渡し、鶫に尋ねた。
『今日は撫子来てないの?』
「家の用事だとよ」
夜摩狐神社の巫女をやっている撫子はときどきこのように部活を休む。
まあしかたないんだけどね。
鶫は姉御肌で頼りになる。
私も頼ってばかり。
ふわふわな髪にバンダナを巻いているのが特徴。
二年生のマネージャーは二人いる。
一年生も今年三人入ったからマネージャーも結構増えたなと思う。
まあその分楽になるわけじゃないんだけど。
校内競馬が終わったのか、校舎側からぞろぞろとユニフォームを着た選手たちが現れる。
分担してタオルとドリンクを配る。
一番に手渡したのは二年の猪里くん。
あまり汗をかいていない。
「猪里くん、はいタオル」
『あ、仮名先輩!嬉しかー!』
博多弁の猪里くんは部の癒しだ。
同じ二年レギュラーの誰かとは大違い。
遠くから叫び声が聞こえる。
猪里くんとそちらを見ると、ちょうど考えてたヤツがそこにいた。
『何してるの虎鉄は』
凪ちゃんの手の甲にキスをしている虎鉄を遠目から眺める。
横の猪里くんは顔を赤くしている。
なんていうか、かわいい。
そんな虎鉄を羽交い締めにする猿野くん。
しかし虎鉄はそれをふりほどかずに、すり抜ける。
喧嘩になりそうな雰囲気に猪里くんと一緒に割ってはいる。
『はい、二人とも何やってんの。虎鉄もマネージャーにちょっかいかけない!いい?』
ヒューと口笛を吹く虎鉄。
猪里くんも続けた。
「まーた女の子にちょっかい出しよったとね」
「よお猪里!仮名先輩はどうだったんだYo?」
猪里くんはそれを聞くや否や、虎鉄の口を塞ぐ。
「ななななんばいいよっとね!?先輩とはなんもなかったい!」
私は首を傾げる。
『あ、もしかしてドリンクいらなかった?』
「いやそういうわけじゃなかばってん…」
ウォーミングアップの号令がかかり、猪里くんと虎鉄たちはグラウンドへ向かう。
私は言い寄られていた凪ちゃんに近づいた。
『大丈夫?凪ちゃん』
「え、ええ…」
『虎鉄はいっつもこんな感じなのよ。嫌だったら私にいつでも言ってね?私のゲンコツでいうことを聞かない部員はいないんだから』
凪ちゃんはオロオロとしていたが、私の一言で安心したのか大きく頷いた。
私のゲンコツは紀洋おじさん譲り。
この拳を味わったことのある虎鉄は私に逆らえないらしい。
紀洋おじさん直伝だもん!
当然だよね!
さあ今からポジション別の練習だ。
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