グラウンドに行くと新入生が一生懸命トンボがけをしている。
それにしても丁寧すぎやしないだろうか。
新監督がなにか言ったのだろうか。
…中にはロードローラーで土をならしている子もいるんだけど。
あ、タイムカプセル埋めてる!
面白い子だな…名前は、猿野くんか。
あ、御門もトンボがけをしている。
まあいつものことなんだけど。
今日くらい新入生に任せてもいいのに。
あ、猿野くんに話しかけられてる。
え?チェリオ買ってきて?
…御門新入生に間違われてるじゃん!
あとでからかうネタができた。
ポンと肩を叩かれる。
振り向くと、そこにはヒゲを生やしたおじさん。
年は…紀洋おじさんくらいかな。
「よお、お前が牛尾の言ってたマネージャーだな」
『…えっと、新監督ですか?』
おじさん…ではなく、新監督はにっこり笑う。
向こうは私のことを覚えていないかもしれないが、私は覚えている。
「名前はなんていうんだ?」
『名簿見てきてくださいよ』
「俺そういうのはパスな。女の子の場合、名前は実際会って顔を見て確かめることにしているんだ」
私は黙り込んだ。
これはセクハラなのか。
『遊人おじさん、私のこと忘れたんですか?』
新監督…もとい遊人おじさんは目を見開いて、私を見つめた。
「まさか…仮名か?」
『気づくのが遅いですよ』
ほお、とまじまじと私を見る遊人おじさん。
「お前成長したな。まだあのときは中学生だったろ?」
『はい』
「どうだ?あいつらは元気か?」
『由太郎は相変わらずですよ。あ、でも魁は背が急に伸びちゃいましたね』
「話は尽きねーな。また時間作って話そうぜ」
手をひらひらと振る遊人おじさん。
『はい、遊人おじさん』
「あー、それな、やっぱ監督って呼んでくれ。こっぱずかしいんだ」
「はい、監督」
うん、と頷き別のマネージャーの元へと向かう遊人…監督。
まさか監督をしているなんて。
しかも十二支で。
私はぞろぞろと集まる二年生と一年生を見ながら、くすりと微笑んだ。
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