中々練習をやめようとしない魁。
私は不思議に思って近づいた。
もちろん危なくないようにボール軌道は避ける。
『魁ー、そろそろ休憩しないと倒れちゃうよ』
魁はびくりと肩を跳ねさせ、こちらを向く。
「あ、ああ、そうだな」
魁はどもると私の手からドリンクとタオルを受け取る。
「ありがたくいただこう」
受け取る時に私の手と魁の手が少し触れた。
魁はす、すまぬとまたもどもる。
私も内心ドキドキだが、それ以上に魁の反応が気になっていた。
『ねぇ、魁』
私達は木陰に移動した。
日中は暑いのに、日陰に入った瞬間に体感温度が急に下がるのは本当にありがたい。
火照った体が少し冷まされる。
『こないだ言ってたよね、魁に好きな人がいるって』
魁は飲んでいたドリンクから口を離す。
「ああ」
魁は暑いのかタオルでしきりに汗を拭っている。
『それって、私には教えてくれないの?』
極力笑顔で、うまく笑えていないかもしれないが、聞いた。
「っ、ああ」
魁は俯いた。
『そっ、か』
私は笑った。
いや、今回は笑えていないと思った。
今までも秘密はあったが、こうして1体1になると必ず話してくれた。
でも、今回は初めて。
『魁も、大人になっちゃったんだなーなんて』
寂しくて小声で呟いてみる。
それが魁に聞こえていたかどうかは分からない。
『実はね、私も、好きな人ができたんだ』
叶わない恋。
それをその相手に言うことのなんと淋しいことか。
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