貴殿が異性に変わってゆく
合宿に来てくれる。

そう聞いただけで拙者の心は弾んだものだ。

仮名が好き。

そう気づいたのはつい先日のこと。

十二支高校の合宿前日、仮名に頭を撫でられた。

そのときに嬉しい気持ちと恥ずかしい気持ちとこのままでいたいという気持ちが入り交じったのだ。

拙者はただ腕を振りかぶる。

バシッという音がマウンドに響く。

汗が流れる。

同じ場所に仮名がいる。

それだけで心が踊る。


筑波嶺の みねより落つる みなの川 恋ぞつもりて 淵となりぬる


陽成院の作った百人一首をふと思い出した。


筑波山の峯から流れてくるみなの川も、(最初は小さなせせらぎほどだが)やがては深い淵をつくるように、私の恋もしだいに積もり、今では淵のように深いものとなってしまった。


陽成院の恋を詠んだその句。
まるで自分の心を詠んでいるようだ。

汗を拭った。

拙者のボールを受けてくれていた副捕手がこちらを恨めしそうに見ている。

皆が休憩している時間に投げ込んでいるのだ。

いい加減疲れているのだろう。

少し息をつくと、拙者はその捕手に向かって叫んだ。

「すまぬな。十二分に休憩するとよい。拙者はもうしばらくネットに向かって投げ込むゆえ」

捕手はこちらに一礼すると仮名の方に向かって走っていった。

もちろん、水を貰いに行っただけだ。

それなのに心が少し傷んだ。

「っ」

手から離れたボールがネットではなく金網に当たる。

ガシャアンと大きな音を立てる金網。

拙者はため息をついた。


どうやら、陽成院の感じた溝よりも深いものに嵌ってしまったらしい。


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