その日の夜、私は伊豆のもう一つの合宿所へと向かった。
建物の前で紀洋おじさんへ電話をかける。
『……あ、もしもしおじさん?』
「おお仮名か!もう着いたか?」
電話の奥からがやがやと声が聞こえる。
ピー音が聞こえるのは気のせいだろうか。
「今から魁を迎えにやるからそこで待ってろ!」
『うん、わかった!』
私は携帯をいじって待っていた。
「仮名」
後ろから声をかけられる。
低い涼やかな声。
私は振り向いて笑った。
『魁!』
私は魁のもとに駆け寄る。
「遅くなってすまぬ。親父殿ももっと早くに言ってくれれば迎えに出れたものを」
魁は少し困ったような表情をする。
「身体は冷えておらんか」
『大丈夫!魁こそみんなで騒いでる中抜け出させてごめんね!』
私たちは二人で合宿所の黒撰の大広間へと向かった。
部屋の前の廊下にはおじさんがいた。
「おお仮名、すまんな呼び出してしまって」
『全然大丈夫!私も由太郎や魁にあえて嬉しいし』
ね!と笑うと魁ははっとして目を反らせた。
魁の様子が気になったが、おじさんの大声でかき消された。
「そうかそうか!ならば皆に紹介しよう!さあ、こちらへ来てくれ」
おじさんはそう言うと、扉を開ける。
「超絶ピーーーーー好調だぜ!!!」
「なんのこの私の優美で素晴らしく軽やかな美技を見たまへ」
「うるさい……」
「うぉりゃーー!!」
私は目を見開く。
これは一癖も二癖もある……。
「注目!!」
おじさんの声で部屋の中で枕投げをしていた部員達は停止する。
それほどまでにおじさんは怖いんだなあ。
私は苦笑した。
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