いつの間にかまた寝ていたようだ。
皆がサバイバルをスタートし、バスは旅館へ向けて出発していた。
ほとんどのマネージャーはもう一つのバスに乗っているのでこのバスには三年である私と鶫と撫子しかいない。
「さて、どうなるかねえ。あの監督の考えてるとおりにことが運ぶといいんだが」
鶫は前列の席にいる。
ぽつりと独り言のように呟かれた言葉に撫子が反応した。
「けれども、とても楽しみですわ」
後方の列で爆睡していた私は目をこすりながら二人に答えた。
『私は野球やってる皆が見れればそれでいーや』
鶫が後ろを向き、驚いていった。
「おや、起きてたのかい」
「仮名ちゃんはすぐ寝てしまわれますものね」
撫子はうふふと笑う。
私は苦笑いをした。
猫を被っている撫子は本心でなにを思っているか分からない。
「アンタは本当に野球が好きだね」
「何か特別な思い入れがあるんですの?」
二人は後方の席に移動する。
そして私の前の席に座った。
『うーん…思い入れっていうか、生まれたときから野球一筋だったし』
へえ、と鶫が感心する。
「そういや長年マネージャーやっててアンタの身の上話聞くのは初めてだね」
私ははっとする。
身の上話を聞くのは初めて?
そりゃそうだ。
隠していたのだから。
寝ぼけていたから口が緩んでしまったのだ。
『あー…うん、それだけだよ』
あまり幼いときの話はしたくない。
そう一言二人に言った。
「そうかい」
鶫はこれ以上尋ねては来なかった。
撫子はしばらく粘っていたが、私が寝ようとしたため諦めたようだ。
野球には楽しい思い出がたくさんある。
でもそれだけ嫌な、苦しい、辛い思い出もある。
私は下唇を噛み締め、再度目を閉じた。
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