野宿
バスが止まった。
それと同時に猪里君が目を覚ます。

「う、うわぁあっ!!」

猪里君は横にいる私を見ると慌てている。

『おはよ、猪里君。可愛い寝顔だったよ』

そういうと、少し意地悪をしすぎたのか猪里君は恥ずかしそうに縮こまった。

「あんまり見らんで欲しかった…」

ぼそりと呟く猪里君。

私はつい猪里君の頭を撫でてしまう。

なんだか由太郎みたいで。

「な、なんばすっとですか!?」

『ごめん、猪里君可愛くて』

選手が荷物を持って下り始めるのを見て、猪里君も荷物を手に取った。

「からかわんで欲しか…」

去り際に呟いた猪里君。

私は小さくごめんと言った。

それが猪里君に聞こえていたかどうかは分からない。


私も荷物を持って出ようとすると、監督に止められた。

「今からあいつらには野宿をかけたサバイバルをやってもらう。マネージャーはバスで宿舎に直行だから乗っとけ」

人のいなくなった前列に座らされる。

『ほーんと性格悪いですね』

私はため息をつきながら笑った。

「ま、それが俺だからな」

ニヒヒと子供のような笑みを浮かべると、説明のためにバスを下りる監督。

その様子を上から眺める。

現レギュラーは野宿にはならないだろうな。
一年生がどれだけ上位に食い込めるかだよね。

監督の性格が悪いとは言ったが、状況判断能力や空間把握能力、そして体力持久力をみるには理にかなっている。

『頑張ってね』

誰にも聞かれず、私の言葉はバスの中に反響した。


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