書状を開くと、慶舎はそれを読み始める。
そして少し口元を緩ませた。
それにしても李牧様の書状が届いたのは本当に良い時分だった。
あのとき外から声が聞こえなければ今頃私は慶舎に。
私はその場に座り込んで深くため息をついた。
足音が聞こえ、私はすっと立ち上がり、慶舎の方を見た。
『書状は』
「李牧様にはお見通しだったようだ」
何のことかわからずに、私は首を捻った。
慶舎はもう何もしないと言って寝台の側に腰を下ろした。
それを見て私も少し近寄って隣に腰を下ろした。
「もう一度、最初からやり直す」
『えっと…』
何を、と聞くのは野暮だろう。
私は尋ねることをせずに心を落ち着かせた。
「私は、名前を好いている」
そしてちらりと私の反応を確かめるようにこちらを見た。
「名前が私の世話係を任されたときは、この女は私を好んではいない。むしろ嫌っていると思った」
私は目を泳がせる。
李牧様をとられると思って、嫉妬心を抱いていたなんて言えない。
「しかし、あるときから私に対する対応が変化した。そして私に、とある言葉を言った」
そして慶舎は私の手にそっと触れた。
「今なら、私も言える」
そして私の手を握りしめる。
まるで、あの初めて会った日のように。
「私も、側に名前がいてくれて嬉しかった。だから、これからもずっと側にいたい」
握りしめられた手が微かに震えている。
私は慶舎の目を見つめる。
私はそんな風に慶舎を見たことがなかった。
でもそれは慶舎を男として見ていないとか、嫌いだとかそういうことではなかった。
近すぎて、気づかなかった。
気づかないふりをしていた。
家族だから、こんなに側にいたいと思っていた。
家族だから、一緒が楽しいと思っていた。
家族だから、そんな感情を抱いてはいけないと思っていた。
私は握られた手の上に片方を重ねる。
その手は温かく、太く、大きかった。
あのときとは全く違う。
『私も、慶舎のこと、好きだ』
少しはにかむように慶舎に笑いかける。
慶舎は暫く固まるが、決したように私を見つめる。
私はなにも言われなくても言わんとしていることが分かって、頷いた。
半年以上慶舎は話さなかったんだから。
表情で気持ちを読むくらいお手の物だ。
私はゆっくりと目を閉じた。
慶舎はそれを見て少し口元を緩めながら、その唇を重ねた。
あなたは自分の思いに耐えきれずに、
好いた人の気持ちを考えないかもしれません。
しかし、焦ってはいけません。
その気持ちを理解してください。
よく考えれば、分かるはずですよ。
…ほら、分かったでしょう?
考えれば相手のことを思いやれる。
先走ってしまうのはあなたの悪い癖ですが。
そう考えることが出来るのは、
あなたが愛しいと気づいたから
なんですよ。
完
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