『李牧様、その子供は』




ある晴れた日、私はいつものように李牧様の遠出に着いてきていた。

そして、立ち寄った町で軍略大会がありそれに出場した李牧様の弟子の佳が負けたのだ。

李牧様は笑っていたが、佳は笑い事ではない。

そう、彼が負けたのは子供だったのだ。

私はその一部始終を見てしまっていた。

だからこそ彼の言ってることも焦っている理由もよく分かる。

私は少しため息をついた。

『李牧様、その子供は賞金を受け取るとあちらの方向へ歩いてゆきました』

「そうですか。名前、ついてきてくれますね?」

私は李牧様の笑顔に頷くしかなかった。


別に反抗的な態度を示しているのではない。

私は李牧様のことが大好きだし、尊敬もしている。
しかも李牧様から好かれていると自信を持って言える。

だからこそあんな子供に興味を示す李牧様が許せなかったのだ。

私は町のはずれにあった武器屋につくと、遠くから佳と共にその様子を眺める。

李牧様は持ってきていた旅のための金袋を武器屋の店主に渡す。

私は再度ため息をついた。

李牧様の財布の紐はかなり緩い。

一度私がきつく縛りなおさねば。

うんうんと目を閉じて唸っていると、李牧様がいつの間に目の前にか立っている。

私は寄りかかっていた木から身を起こし、慌てて身を整えた。

『李牧様、言っておきますが財布の管理は』

「名前、この子は慶舎と言います」

『は』

李牧様に金の管理について正そうとすれば、李牧様はとてもいい笑顔で子供の背に手を当てている。

子供、確かに先程の大会で優勝した子供だ。

李牧様はこの子供を「買った」のだ。

つまりこの子は奴隷のようなものだったのだ。

私はあからさまに顔をしかめた。


『李牧様、その子供は』


「慶舎といいます。あなたが世話係になってください」


私は目の前が遠くなったように感じた。

横にいた佳も慌てている。

子供の瞳に光はなく、その瞳にはもちろん私は映っていない。

髪は左右に分けられており、下の方で団子にして布で包んである。

返事がない私をのぞき込む李牧様。

「嫌ですか」

『いえそんなことありません精一杯頑張ります』

矢継ぎ早に呟く。

本心からそう思っていないのは李牧様に見え見えだし、この子供にも伝わっただろう。

子供の表情は変わらない。

「さ、行きますよ名前、佳、慶舎」

はっ、と佳は繋がれていた馬に跨る。

李牧様も同様に。

『この子供は私が?』

当然、と無言でこちらに笑いかける李牧様。

『……いくぞ』

私は仕方なく子供の手を掴んだ。



握り返したのは、



子供にしてはとても冷たい、とても小さな細い手だった。




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