01 突然の来訪




お父さんお母さんお兄ちゃん、四人で住んでたこの家に一人住人が増えました。



『あなたは誰ですか』

「貴様こそ、何者だ」


私の目の前にいるのは男。

ここは私の家。

四人で暮らしていたが、兄の引越しと共に家族は私を置いて別の土地へついて行った。

別に寂しくはない。

同じ日本に住んでいるという事は変わらないし、そう遠くもない。

そんな私しか住んでいない部屋の中に、一人の男が倒れていた。

長い髪を所々で束ねた男。

顔立ちははっきりとしていて、目はとても大きい。

うわ、まつ毛も長い。

そして着ている服といえば、甲冑だ。

コスプレ衣装にしては出来がいい。

血らしきものもついている。

もしや新手の泥棒?

行き倒れのふりをして金品盗んでいくとか?

いや、もしかして留守と思って泥棒に入ったら何かの持病で倒れちゃったとか?

そんなことを考えながら男の人の肩を軽く叩く。

これは自動車免許をとる時に習った救急救命的なアレだ。

たしか耳元で意識があるかを聞くんだっけ。

『あの、大丈夫ですか?』

肩をポンポンと叩いていると、その体が少し動いた。

気がついたのかな。

そう思いコップに水を入れて用意する。

ゆっくりと目を開いた男。

その目が私の目と合う。

その瞬間だった。


ばしっ。


差し出していた手が弾かれる。

水の入ったコップが宙を舞い落下して、破片と水が床に飛び散った。

『痛っ…』

手を叩いたその男が私を睨んでいる。

その甲冑、もしかして本物?

じゃあその血も。

ぞくりとした。

ああ、なんて馬鹿なんだろう。

この人は、人殺しなのかもしれない。

なんで助けようとしたんだろう。

『あなたは誰ですか』

怖いはずなのに、私は何故かしっかりとした口調で言い切った。

「貴様こそ、何者だ」

その男は私をきつく睨む。

そんな目でみられても、私にはどうしようもないもの。

『どうして私の家に?』

「……家?」

男は警戒しながら私の部屋を見渡す。

見る見るうちに表情が変わっていくのがわかった。

「ここは、どこだ」

『だから、私の家ですって』

「なぜ俺をここに連れてきた」

『こっちの台詞です!なんで私の家にいたんですか!』

男は黙り込む。

そして私をちらりと見るとため息をついた。

「その目、嘘はついていないようだ」

『当然っ……!っ』

バンと床に手をつき、その男に訴えようとする。

しかし、ぴりっとした痛みが右手に走ったことで、私は言葉を出すのを中断した。

そうだ、コップが割れたんだった。

手が切れている。

参った、すぐに絆創膏貼らなきゃ。

『そこ、動かないでくださいね。怪我しますよ』

私はそろりそろりと破片の散らばっていない床を踏みながらゴミ袋と掃除機と救急箱を取りに行った。

その男は私が右手に絆創膏を貼るのを凝視しながら、私の言うことを聞いてその場にいる。

コンセントを差し込み、掃除機をオンにした時だった。

「なんだ!?その化け物は!!」

その音に驚いたのか、男が急に叫んだ。

私は驚いて掃除機を止めた。

『え!?何って、掃除機ですけど』

この掃除機は普通の型だ。

今はやりのル〇バなどではなく、手持ちのタイプ。

「そう、じき?」

もしかして、掃除機を知らないのだろうか。

『ごみを吸い取る機械です』

「きかい……」

男の目が明らかに輝いているのがわかった。

さっきの私に向けてたアレはなんだったの。

『電気で動いてるんです』

「でんき…?」

それすら分からないのか!

なんだか赤ちゃんに言葉を教えている気分だ。

私は少し笑うと、ちょっと待っててくださいと言って、掃除機の説明書を男に渡した。

男はそれを右に左に傾け、ゆっくりと開く。

眉を潜めているということは、あまり読めていないらしい。

『とりあえずガラスの破片を片付けるんで、うるさくても我慢してくださいね』

大きな破片は手で、小さな破片は掃除機で吸い込む。

水は……とりあえずタオルでいいか。

床が大分綺麗になり、私は改めて男と向き直った。


『あの、ところであなたは』

「…貴様の名を先に名乗れ」

まだ警戒しているのだろうか。

ちょっと!説明書握りしめないで!
それまだちゃんと読んでなかったのに。

しかしここでそれをいうほど、私は空気を読めないわけではない。

『私はさくら。ここに住んでいる学生です』

男は少しため息をつくと、ゆっくりと口を開いた。

「俺は呉鳳明。魏の将軍だ」



(ゴさん?)
(…鳳明でいい)




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