■ 鉤鼻の男

見たことは無い。

「お嬢さんは誰かの」

おじいさんは笑う。

フォークスと呼ばれた鳥はクルルと甘い鳴き声を出した。

『あ、あの私、気づいたらここにいて』

フォークスが擦り寄ってくる。

ふわふわとした羽毛が私の肩に触れる。

「そうじゃろうそうじゃろう。歴代の校長が教えてくれた」

そう言っておじいさんは周りの絵を指す。

よく見ると、その絵は動いていた。

ひっと驚くと、肩に擦り寄っていたフォークスも驚いたようだった。

「君はどこから来たのかの?」

『私、日本の生まれです』

なぜ英語が話せているんだろう。

なにか不思議な力が働いている事は確実だ。

「日本か、さて、君をどうすれば良いかの」

立派なあごひげを撫でるおじいさん。

『あ、あの、おじいさんの名前は』

おじいさんは笑う。

「ワシはダンブルドア。アルバス・ダンブルドアじゃ。この魔法魔術学校ホグワーツの校長じゃよ」

このおじいさんなんといった?
魔法魔術学校?

ここは魔法使いの世界なの!?

『ま、まほう!?』

「驚くのも無理はなかろう。お主はマグル、魔法能力を持たない人間出身なのだから」

マグルという語句の説明もしてくれたおじいさん。

とても優しい。

おじいさんは私の手を引く。

「こちらへおいで、別の世界から迷い込んできた君をなんとかするとしよう」

ダンブルドアは私を連れて、扉をくぐった。

石像にレモンキャンデーと呟くと、石像は生きているかのように飛び退く。

「そろそろこの合言葉も変えねばの」

笑って話すダンブルドア。

レモンキャンデーってお菓子じゃないのかな。

そんなのが合言葉でいいの?


長い廊下、長い階段を歩き、たどり着いたのは地下室。

先ほどの校長室と同様に暗い。

しかもこちらはジメジメとしている。

「セブルス、いるかの」

つきあたりの扉を数回ノックし、ダンブルドアは話しかける。

すぐに奥から一人の男が出てきた。

その目は鋭く、私は小動物のように縮こまる。

土気色の顔。べたりと張り付いた漆黒の髪。
その髪のように黒々とした目。

「校長、その娘は」

その目が私を捉える。

ダンブルドアは私の頭をぽんぽんと撫でる。

「この娘は先ほど私の部屋にいた娘じゃ」

「は」

セブルスと呼ばれた男はなんのことはわからないようだ。

そりゃそうだ。

私だってよくわからない。

「君は夏休みにここに残っておる。この子に色々なことを教えてはくれんか」

『えっ』

私は驚いてダンブルドアを見る。

この男が私の教育係になるというのか。

耐えられる気がしない。

「娘、名は」

『名前は、ユウリ。カミヤマユウリ』

「日本ならば名字が先じゃからの、ユウリ・カミヤマということか」

そういえばダンブルドアにも名乗っていなかった。

私は頷く。

ダンブルドアは満足そうに微笑むと、セブルスにウインクした。

「引き受けてくれるな?」

セブルスは嫌そうな顔をしながら頷いた。

『あの、よろしく。セブルス……?』

「カミヤマ、お前は日本人だからおそらく分かっていないのだろうが、セブルスはファーストネームだ。我輩はセブルス・スネイプ。スネイプ教授と呼ぶように」

ご、ごめんなさい!と慌てて謝る。

ダンブルドアは笑っている。

「お嬢さんにセブルスと呼ばれてときめかんのかの?」

「ご冗談を」

スネイプ教授はふんと鼻を鳴らすと、私の背を押して自室に入れた。

ダンブルドアのウインクが見えたと思ったら、スネイプ教授はすぐにそのドアを閉める。

……私は今から何を拷問されるのかな。

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