■ お前は、どこへ行った

俺の目の前で、アスラは消えた。

雷魔法はアスラに当たらなかったようだ。

俺は怒りに身を任せて、敵を切り伏せた。

それは人形だった様で、本体は別のところにあるのだろう。

「アスラ……?」

俺は魔装を解き、剣を地面に突き刺した。

「アスラは、一体」

紅明もこの状況が理解出来ていないようだった。

「まさか、アスラは」

あちら側へ行ってしまったのですか。

その言葉が出る前に俺は踵を返した。

紅覇が本陣を落とす。

この戦は我々の勝ちだ。

“紅炎、褒めてよね!私結構頑張ったんだからさ”

その声は聞こえない。

俺は何も考えずに馬車に乗った。

このまま洛昌へ帰るのだ。

紅明も同じ馬車に乗るが、何一つ喋ろうとしない。

俺はため息をついた。

そして、その沈黙を破った。

「紅明、俺はアスラを愛していた」

その言葉にばっと顔を上げる紅明。

「……知っていました。その感情を殺していたことも」

そして気まずそうに顔を背ける。

「兄王様も気づいていたでしょう。私がアスラを愛していたことを」

間髪入れず俺は肯定した。

「次期皇帝である俺が家臣を正妻になどできん。だから俺はお前に譲ろうと思っていた」

ふっと俺は笑う。

「時期が来るまでは邪魔してやろうとしていたがな」

紅明は唇を噛み締める。

「お互いに愛するものが消えたということですか」

俺は笑う。

「シャプールとイスファーンの兄弟は10日でこの世界からあちらへ帰った。ならばアスラもそうであるだろう」

「そうならばいいのですが」

紅明は俺の言葉に多少なりとも安心したようだった。

「帰ったら国中の魔導師を俺の元へ。アスラのルフを追わせる」

「は」

しかしやれることはやる。

それが俺だ。

せっかくアガレス、アシュタロス、ヴィネア、レラージュの眷族になったのに。

まさかすぐに消えてしまうとはな。

俺は自嘲気味に笑った。

アスラを抱いた時に言えばよかったのだ。

家臣ではあるが、お前のことを愛している、と。

しかし俺は言わなかった。

それが今この後悔を生んでいる。



prev

back
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -