■ 兄弟、次兄と出会う

街を見回った次の日、シャプールとイスファーンを正装に着替えさせると、私は出仕の準備をする。

イスファーンの首にガーネットのペンダントをかけてあげると、あねじゃありがとう!と笑顔を見せる。

つられて笑ってしまった。

剣を携え、簪を髪に挿し、細工工から昨晩のうちに受け取っていたペンダントをつける。

イスファーンのシンプルなものと違い、金の細工が施され、一目で女性用だと分かるものだ。

緊張した様子のシャプールとイスファーンの手を握る。

『今日は紅炎、この帝国の第一皇子と会うよ。おそらく大丈夫だろうけど、粗相のないようにね』

シャプールは黙って頷いた。
流石にわかっているようだ。

髪をみると、伸びた襟足に加工してもらったガーネットをつけている。

なるほどこういう使い方か。

「あねじゃ、こーえん、こわい?」

『まあ顔は怖いかもしれないな。でも大丈夫』

家を出て、禁城へ向かうためにイスファーンを背にシャプールを横抱きにする。

嫌がるシャプールに内心謝罪しながら、私は飛んだ。


禁城が見えてくる。
正面から堂々と子供連れでは入れないだろう。

紅玉か紅明の部屋から入り込もうか。

紅玉の部屋には侵入したことがある。

夏黄文によく思われていないせいで、隠れて会っているのだ。

そのときに簪をもらったのだ。

そういえば紅明や紅覇からも金属装飾品をプレゼントされた。
右耳の耳飾りと左手の腕輪だ。
さすがに付けないわけにはいかない。

シャプールが遠くから見つけた人影に反応する。

「アスラ、あの部屋誰かいる」

あの部屋は……紅明の部屋だ。

私は一旦木の上に止まる。

あの距離まで一気に飛ぶのは初めてだ。

これ以上近づけば憲兵もいる。

足に力を入れる。

メキメキと木が鳴る。

そして一気に飛び出した。


もう少し!

もう少し……!!

届かない。


「アスラ!無理だ!!俺を投げろ!」


そう言ったシャプールを部屋の中に投げ込み、私は落ちながら必死に壁に指をくいこませた。

背中のイスファーンは震えている。

私もここまでギリギリだとは思わなかった。

なんとか部屋に這い登る。

先に登っていたシャプールが泣きそうなイスファーンを抱っこしてあやしている。

『ごめんねイスファーン、怖かったよね』

「…アスラですか」

部屋の奥の寝台から声が聞こえる。

私は腰の剣を外し、寝台の近くによった。

そして左手で右手の拳を包み込み拱手した。

『紅明様、おやすみのところ申し訳ござらん。紅炎様にお目通りを伺いたく参上しやがりました』

うごめく毛玉、もとい紅明はきょとんとした顔でこちらを見た。

「は?アスラ、その喋り方なんなんですか?頭でも打ったんですか?頭が悪いのにそんな真似しては変に見えます。しかも敬語間違ってますし」

『うるさいよ紅明』

拱手していた手を解き、いつもの口調に戻す。

一応純粋な子供たちの前では猫をかぶろうと思っていたのだが、まあそううまくいくはずもなく。

「それがあなたです」

そういい、寝台から起き上がる紅明。

「…あなたいつから子持ちに?兄王様の御子ですか?」

『悪い冗談だね、紅明。この子たちの住んでいた国について紅炎に聞こうと思ったんだよ』

「は、シャプールと申します。こちらは異母弟のイスファーン。私共の住んでいた国、パルスについてお聞きしたく、参上仕った次第」

紅明は寝巻きのままこちらに近寄ってくる。

というかシャプールとイスファーンは異母兄弟だったのか。
それは知らなかった。

しかしそれを感じさせないほどの絆がこの二人にはあるように感じた。

紅明は小首をかしげた。

「これはアスラの子ではないですね。あまりにもしっかりしている。血の繋がりなど微塵も感じられない」

むっとするが、紅明が褒めるのもわかる。
王族の前でこのような拝礼をできるということはよほどしつけられているか、普段からこのような振る舞いをしているかだ。

『とりあえず紅炎の元へ行こうか。紅明も着替えるだろうし』

「手伝ってください」

『はあ』

正直、紅明は何も出来ない。

私が練家に仕えている以上、どんなことでもやる予定だが、さすがに侍女を連れてきて欲しい。

てきぱきと服を着せられる紅明はきせかえ人形のようで、シャプールとイスファーンはぽかんとしていた。

「アスラ、本当にこいつ王族か」

『一応』

小声でシャプールと話す。

「聞こえていますよ」

大欠伸をする紅明はそれを気にする様子もなく近くに置いてあった黒羽扇を手に取る。

それを見ながら私は右耳に触れた。

紅炎の眷属として長年仕えていたが、つい一年前に紅玉から貰った簪にヴィネアの力が宿った。

紅玉の眷属にもなってしまったのだ。

それからというもの、紅覇と紅明にも仕えるようになった。

紅炎曰く、四人の眷属になれば面白いとのこと。

あのときの紅炎の表情は忘れられない。

自分の知らないことを知ろうとする欲望が溢れでた迫力のある顔。

普段のコケシ顔とは大違いだった。

「さあアスラ、行きますよ」

紅明の声で我に返る。

『わかった。シャプール、イスファーン行こう』

二人はこちらをみて軽く頷いた。



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