■ ひたすら、逃げる

ペシャワール城に行き先が決まったのはすぐだった。

アルスラーンはすでに決めていたようだった。

「キシュワードのいるペシャワール城を目指す!」

『キシュワードって?』

後ろでダリューンに尋ねる。

「キシュワードは万騎長の一人だ。俺とともに若い万騎長として有名だった。双剣将軍としてな」

へぇーと相槌を打つ。

そこには多くの兵がいるらしい。

食事を終えると、私たちはすぐに出立した。



馬で昼間走り続けていると、後ろから大勢の兵が来ていることが分かった。

先ほどファランギースが偵察したが、前にもルシタニア兵がいるという。

エラムの偵察で、ボディールの残兵が山に火を放ったことが分かった。

前からルシタニア兵がやってくる。

「ここは俺に任せろ。先に行け」

ダリューンが一騎でルシタニア兵を迎え撃つ。

私たちは山道を逃げ出した。


エラムの先導で森に向かう。

山は火の手が上がっていて、煙が多い。

「森に入るぞ!!」

その言葉と同時に前からルシタニア兵、背後からホディールの残兵が押し寄せてきた。

アルスラーンを守らなければならないが、煙と兵たちの雄叫びで見えないし聞こえもしない。

私は煙を抜けると、馬を逃がした。

馬に乗るよりもこの身一つの方が小回りが利く。

後ろからギーヴも煙を抜けてきた。

「アスラ!無事であったか!馬は!?」

『うん、逃がしたよ、こっちの方が楽だからね』

剣の交わる音が響く。

私とギーヴはそちらに向かった。

「ファランギース殿だとしたら助けに行かねば!」

『男だったとしても、助けるよね?』

も、もちろんだとも!と引き笑いをするギーヴ。


煙の奥にいたのはエラムとアルスラーン。

私は崖下に飛び降りた。

「ったく、血の気の多いお嬢さんだ!子供二人のお守りとは貧乏くじにも程がある!」

ギーヴも続けて飛ぶ。

ギーヴが背後から矢を射て、私は馬の足を切ってゆく。

馬上から転がり落ちる兵達に止めを刺し、アルスラーンとエラムの元に近寄る。

『お待たせ、大丈夫だった?』

「アスラ!よかった!」

「忠実な下僕、ギーヴも参りましたぞアルスラーン殿下!」

「なにが忠実な僕だ」

ぼそりと呟かれたエラムの言葉に苦笑いをする。


草むらを走り続けていると、奥に光が見える。

『やばい弓兵だ!』

「引き返せっ!」

その言葉も届かず、三人とも落馬する。

背後からのルシタニア兵をギーヴが切り伏せ、弓兵は私が襲う。

エラムとアルスラーンは逃げるが、何故か立ち止まる。

その先は崖だった。

「ええいやってやる!」

ギーヴはエラムとアルスラーンを抱えると崖下へ飛び降りた。

すかさず後を追う。

すぐ下には出っ張りがあった。

そこに三人は身を潜めている。

のぞき込んできたルシタニア兵をギーヴが刺し殺し、崖上で馬を奪う。

ギーヴは自分の馬に積んでいた荷物を載せ変えるときに、見つかってしまった。

『馬鹿じゃないのかな!』

「うるさい!パルスの文化を守らなければ!」


一晩走り続けるが、全く兵は減らない。

『本当にしつこいねー』

「アスラは馬に乗らなくても大丈夫なのか」

『大丈夫、体力には自信があるからね』

アルスラーンの気遣いに感謝しながら、私は前のルシタニア兵を切り伏せてゆく。

しかし横からの弓矢に寄ってエラムの馬が撃たれた。

エラムは転がり落ちる。

前線で戦っている私は出遅れるが、すぐにアルスラーンが助けにゆく。

「なんと酔狂な」

嬉しそうなギーヴ。

すぐに私たちは囲まれた。

槍兵が多く、切り伏せることは難しい。

ギーヴは軽くため息をつくと、持っていたパルス王家の金銀財宝をばらまいた。

それに飛びつくルシタニア兵たち。

真っ先にそれを諌めた人物をギーヴは両断する。

隊長が殺られたことを察したほかのルシタニア兵達は一目散に逃げていった。



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